2012年05月07日

【曲目解説】川久保賜紀&上原彩子 デュオ・コンサート

2012年6月26日(火) 19:00 サントリーホールで行われる川久保賜紀&上原彩子 デュオ・コンサートの曲目解説です。

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 20世紀ロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)は、オペラや映画音楽を含むあらゆるジャンルに作品を残した多作家で、現代的感覚と叙情性が絶妙のバランスを見せる数々の人気曲は世界中で演奏されている。室内楽曲も少なくないが、今回演奏される3曲はいずれも、当初からその楽器のために書かれたオリジナル作品ではなく、作曲者自身が自作を編曲した作品である。楽器を変えてもその音楽が決して色あせることがないのは、すぐれたメロディ感覚と、誰をも夢中にさせるリズム感を持ち味とするプロコフィエフだからこその魅力といえるだろう。また自らすぐれたピアニストでもあったプロコフィエフの作品はどれも、きりりと引き締まったヴィヴィッドな演奏効果を存分に発揮するように書かれており、演奏家のテクニックと表現力を引き立たせる。名手の演奏でこそ聴きたい曲目だ。
 一方のリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)は、リストやワーグナーの後継者として交響詩や楽劇の分野で名を馳せた後期ロマン派最後の大家。その作品のほとんどは巨大なオーケストラを駆使した作品である。彼が残した室内楽曲はわずかしかなく、しかもいずれも初期に書かれたいわば習作なので聴く機会は決して多くないが、今回演奏される<ヴァイオリン・ソナタ>はその中でもっとも高い完成度を誇る貴重な作品。シュトラウス自らがヴァイオリンをかなり弾きこなしたことから、高度な技巧を要求する作品となっており、また後年のゴージャスなオーケストラ作品の片鱗もうかがえる聴き応え十分の一曲となっている。

プロコフィエフ:5つのメロディ Op.35bis
 アメリカ亡命時代の1920年に<5つの歌詞のない歌>という歌曲として作曲したものを、5年後にプロコフィエフ自身がヴァイオリンとピアノのために編曲した作品。亡命時代の作品にはやや晦渋な作風のものが多いが、それぞれにアイデアを凝らした各曲には、ひらめきと感性の作曲家の本領が発揮されている。
 第1曲アンダンテ、第2曲レント・マ・ノン・トロッポ、第3曲アニマート・マ・ノン・アレグロ、第4曲アレグレット・レッジェーロ・エ・スケルツァンド、第5曲アンダンテ・ノン・トロッポ。

R. シュトラウス(1864-1949)
ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調 Op.18
 リヒャルト・シュトラウス23歳の時に完成されたこの作曲家唯一の<ヴァイオリン・ソナタ>は、初期の古典的作風を締めくくる一曲と位置づけられ、その作風はブラームスを思わせる。また一方で、色彩感あふれる和声的など、シュトラウス特有の感性もすでにこの作品には表れており、この作品以後、彼が歌劇や交響詩のジャンルに表現の場を求めていった必然性を見いだすこともできる。曲は、堂々たる規模を誇る3楽章構成。ヴァイオリンの技巧は、たいていの協奏曲よりはるかに難しいといわれている。
 第1楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポは、情熱的な楽想を中心に立体的に組み立てられた、規模の大きな、生気に満ちた楽章。
 第2楽章アンダンテ・カンタービレは<即興曲>と題され、官能的ともいえるその音楽は、全曲中きわめて印象的な部分を形づくる。
 第3楽章アンダンテ - アレグロは、緩やかな前奏ののち精力的な主部主題が現れ、熱のこもった音楽を展開する。

S.プロコフィエフ(1891-1953)
バレエ「シンデレラ」からの3つの小品 Op.95

 プロコフィエフのバレエ音楽は全部で8つあり、いずれも才気あふれるこの作曲家ならではの魅力に富んでいるが、後半の3曲、つまり<ロメオとジュリエット>、<石の花>、そしてこの<シンデレラ>は、プロコフィエフが1933年にソヴィエトに復帰した後の叙情的な作風がとりわけ新鮮な魅力となって、広く愛好されている。キーロフ歌劇場の委嘱により1940年に着手されたバレエ音楽<シンデレラ>は、第二次世界大戦中に<戦争ソナタ>やオペラ<戦争と平和>などの作曲によってたびたび作曲が中断されたこともあり、1945年にやっと全曲が完成した全3幕50曲からなる作品。プロコフィエフはバレエ音楽の完成に先立って、1942年から43年にかけて3つのピアノ編曲版の曲集を発表しているが、今回演奏される<3つの小品>Op.95はその一つである。すぐれたピアニストとして、独自のピアニズムを展開したプロコフィエフならではの硬質なロマンティシズムが、これらの編曲にも息づいている。
 第1曲「パヴァーヌ」、第2曲「ガヴォット」、第3曲「ワルツ・レント」。

S. プロコフィエフ(1891-1953)
ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ長調 Op.94bis

 プロコフィエフは2曲のヴァイオリン・ソナタを残しているが、この<第2番>は1942〜43年に作曲されたフルート・ソナタを1944年にヴァイオリン・ソナタに改作した作品。厳粛で内省的な性格をもち至難な技巧が要求される<第1番>とは対照的に、平明で簡潔な表現により、ロマン的な情緒が独特の魅力を生む音楽となっている。原曲のフルート・ソナタは、プロコフィエフが独ソ戦の混乱を避けてウラル地方の各地に疎開していた時に作曲した作品であり、その初演を聴いたダヴィド・オイストラフがヴァイオリン用に改作するよう勧めたのだった。1944年6月に、オイストラフとレフ・オボーリンによって初演されたこの<第2番>は、原曲のフルート・ソナタ以上に好評をもって迎えられ、現在に至っている。プロコフィエフ特有の硬質なリリシズムが、ヴァイオリンの旋律美を魅力的に際立たせる。
 第1楽章モデラートは、哀愁漂う第1主題と舞曲風の軽やかな第2主題によるソナタ形式。
 第2楽章プレストはスケルツォ楽章で、ドライでどこかシニカルな感じがいかにもプロコフィエフらしい。
 第3楽章アンダンテは、ロマンティックな美しさが際立つ楽章。
 第4楽章アレグロ・コン・ブリオは、行進曲風の堂々たる風格と躍動感に満ちたフィナーレ。

曲目解説:柿沼唯(作曲家)



上原彩子&川久保賜紀デュオ・リサイタル
10年の時を熟して奏でる友情のハーモニー
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2012年6月26日(火) 19時開演 サントリーホール

プロコフィエフ:5つのメロディ Op.35bis
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18
プロコフィエフ:バレエ「シンデレラ」からの3つの小品 Op.95 (ピアノ・ソロ)
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ長調 Op.94

公演の詳細については
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2012年05月01日

ルドルフ・ブッフビンダーの公演情報

2012年6月にルドルフ・ブッフビンダーが来日公演を行います。
『ルドルフ・ブッフビンダー・プロジェクト in トリフォニーホール2012』
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※画像をクリックするとPDFでご覧いただけます。

【第一夜】リサイタル
2012年6月16日(土) 19:00開演(18:30開場)
<曲目>
ベートーヴェン/ ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 作品13 「悲愴」
ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 作品57 「熱情」
シューマン/交響的練習曲 作品13

【第2夜】協奏曲《ブラームス:ピアノ協奏曲全曲演奏会》
2012年6月19日(火) 19:00開演(18:30開場)
<曲目>
ブラームス/ ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15
ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品83

<出演>
指揮:クリスティアン・アルミンク
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

【料金】
●2公演セット券:S¥11,700 A¥9,900 B¥8,100
●1回券:S¥6,500 A¥5,500 B¥4,500
(トリフォニークラブ会員は、2公演セット券はS¥10,400 A¥8,800 B¥7,200、各1回券は各10%引き、同時入会申込可)

【お問合せ】トリフォニーホールチケットセンター 03-5608-1212
ホームページ:すみだトリフォニーホール
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2012年04月18日

若手の注目のピアニストたち!を表にしました。

ヴンダー、トリフォノフ、ロマノフスキー、ゲニューシャス、ホジャイノフの最近の活躍ぶりやスタッフが教える深いい話!などを表にしました。
彼ら若手のピアニストに、ぜひご注目ください。
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※クリックするとPDFでご覧いただけます。
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2012年04月10日

インゴルフ・ブンダー曲目変更のお知らせ

インゴルフ・ヴンダー ピアノ・リサイタルのプログラムに一部変更がございます。(2012年4月10日現在)

演奏者の希望により下記の通り、曲目を一部変更させていただきます。
リスト:超絶技巧練習曲集より「マゼッパ」 → リスト:死のチャルダーシュ
他の曲目に変更はございません。
何卒ご了承賜りますようお願い申し上げます。

<最終曲目>
モーツァルト:ピアノ・ソナタ第13番 変ロ長調 K. 333
リスト:超絶技巧練習曲集より 「夕べの調べ」
リスト:死のチャルダーシュ
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op.58
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22

詳しい公演情報はこちらから

posted by Japan Arts at 10:30| お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月04日

横山幸雄、15時間の「ショパン全曲プログラム」について語る

「ショパンの人生における成熟を、私たちの1日の流れに重ねあわせて感じていただきたい」―是非Myクッション持参で(笑)
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―ショパンの作品全曲演奏会は、2010年、2011年に続いて3回目の演奏会となり、今回は「作品番号のついた全作品演奏」ということですが、中でも注目が、ショパンのピアノ協奏曲第1番・ピアノ協奏曲第2番の“ピアノ独奏ヴァージョン”の演奏ですね。
私はこの楽譜の存在を一昨年前に知りました。ピアノ独奏ヴァージョンでショパンのピアノ協奏曲を演奏しておられるピアニストは、まだそんなにたくさんいないと思います。
私自身、演奏会では初めて演奏します。
実際の舞台でどのような演奏になるのか、私も楽しみなんです(笑)

―朝8時からコンサートが始まって、夜までずっとショパンの作品番号順に演奏が行なわれる訳ですが、演奏の中で1日の中の人間の気持ちの変化のようなもの(朝の気分、夜の気分など)はあるのでしょうか。
それはあります。この演奏会で、「ショパンの人生における成熟を私たちの1日の流れに重ねあわせて感じていただく」のも面白いのではないかと思います。
例えば、朝はすがすがしいし、新鮮ですね。演奏会のプログラムでは、そこにショパンの若いときの作品があらわれます。
そしてプログラムのお昼にさしかかるころには若々しいが既に脚光を浴びるショパンがそこにいる。
それが夕方くらいになるとジョルジュ・サンドとの出会いや人生の経験を色々と積んだショパン―それは私たちの1日で言うと、夕方の1日のちょっとした疲れ、そして“乗ってきた感じ”そんな感じでしょうか。
そしてそれを飛び越えて夜になると一種の“疲れ”によってそれがかえってハイ・テンションに向かうような気持ち―ショパンで言うと晩年の体調をこわして1年の大半をベッドで過していながら「第3ソナタ」を完成するというような感覚は、普通なら1日の中で夜食事をして落ち着いてその日の終息に向かう方向にある時に、そこから逆方向にテンションをあげてゆく時がありますが、そこがショパンの人生とも重なるような気もするのです。
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―15時間と長いコンサートになりますが、聴衆の皆さんにお伝えしたいメッセージをおきかせください。
コンサートというと、どこかかしこまって会場に向かう、というイメージがありますね。
それはもちろん、その良さもありますが、このコンサートは「1日中、すこしゆるく」ショパンの人生に浸っている、そんなイメージでお楽しみいただきたいコンサートです。
1回目、2回目とこういったコンサートを行なってきましたが、長い時間のコンサートですので、お客様はトラベル・グッズのようなものをお持ちの方とか、クッション持参でお越しの方とか・・・長時間フライトの気分でお越しの方もおられますね(笑)
通常のコンサートのように2時間集中して、というのではなく、ずっと一緒に浸ってその中で成熟してゆく、テンションも少しずつ上がっていって、皆さんと共につくり上げてゆく、「2012年ショパンの生涯Vol.3」にしたいですね。
朝からご一緒させていただくのはもちろん、お昼のいい時間にご一緒できるのも、その後ずっとご一緒できるのも嬉しいです(笑)
コンサート会場でお待ちしたおります。

―ありがとうございました。



横山幸雄 “入魂のショパン”
<ショパン/ピアノ作品全149曲演奏会>

2012年5月3日(祝)東京オペラシティ コンサートホール
開演:朝7時30分開場/8時開演
夜11時終演(予定)

全4部  ※各部の開演予定時間
〔朝の部〕 午前8時
〔昼の部〕 午後0時50分
〔夕べの部〕午後3時40分
〔夜の部〕 午後7時5分

全日通し券:¥9,500  各部券:¥ 4,000
お問い合わせ:ジャパン・アーツぴあ 03-5774-3040 

posted by Japan Arts at 16:26| 邦人アーティスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月23日

音楽の友、月刊ピアノに掲載:アリス=紗良・オット

2012年4月号「音楽の友」
2012猿4月号「月刊ピアノ」
インタビューが掲載されました。
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2012年03月22日

川久保賜紀にインタビュー<上原彩子&川久保賜紀 デュオ・リサイタル>

上原彩子さんとの共演やプログラムについて、川久保賜紀さんにインタビュー。
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― 上原さんと初めての共演ですが、どのような思いでしょうか。
昔から凄い方だなと思ってましたので、ずっと共演したいと考えていました。
コンクール以降、会う度に「何かしたいね。」と話していたのでようやく実現したという感じです。10年越しで願いが叶いましたね。
同年代のアーティストとのデュオも今まであまりなかったので本当に楽しみです。

― 川久保さんは上原さんとどのように音楽を作っていきたいと思っているのでしょうか。
そうですね、始めてのリハーサルで決まると思っています!リハーサルを重ねながら彼女と音楽を作っていけたらいいですね。ですから、まだこれからでなんです!
今までじっくりと一緒に音楽を作るということがなかったので、楽しみにしています。

― 上原さんはどんな方ですか?
とっても小柄で可愛らしい方なのですが、芯が強い方なんだろうなぁ…。音楽も情熱的ですし、内には炎のようなものを秘めている方だと思います。

― 2011年に発売されたライブ版CDにもプロコフィエフ、5つのメロディとヴァイオリン・ソナタが収録されていますね。今回のプログラムにも入っていますが、川久保さんにとってどのような曲なのでしょうか。
昔からプロコフィエフが好きでした。ロシア音楽というのもあるのですが、でもショスタコーヴィチよりプロコフィエフの方が弾いてます。
ちょっと切なかったりふざけている部分があったり、人間のいろいろな感情がとてもよく表現されているところに魅力を感じています。
ヴァイオリン・ソナタはもともとはフルート・ソナタとして作られた曲なので、フルートで演奏される時とヴァイオリンで弾いた時と違った印象があって面白いですね。テンポの取り方とか、私はなるべくフルートの演奏に近づけるように弾いています。
どちらともたくさん勉強もしましたし、レコーディングもしているので、ぜひそれを日本の方々に聴いてほしいと強く思っていました。
そうそう、プロコフィエフは昔「ピーターと狼」がとても好きだったんです。きっとその影響もあるかもしれませんね。
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―それぞれの曲の聴きどころを教えてください。
プロコフィエフの“5つのメロディ”は、どちらかというと渋めの選曲になってしまったのですが、1曲1曲がとても短くいろいろな色と面白さを聴いて頂ける曲だと思います。
そしてシュトラウスはガラっと変わって、とてもロマンティックな曲です!

―以前、清水和音さんとこちらの曲で共演されてましたね。
清水さんと共演した時、この曲を初めて演奏したんです。ですから、今回はもっと細部までじっくりと弾きこんでいけたらと思ってます。
このソナタは特にピアノがとても大胆。2人で大胆に弾いていきたいですね(笑)

―今後挑戦したい曲はありますか?
ベートーヴェンですね。ソナタの6番、8番、10番をまだ弾いてないので挑戦したいです。現代曲ですと、ヴィアークとか弾いてみたいです。

―お二人の共演を楽しみにしています。ありがとうございました。


上原彩子&川久保賜紀デュオ・リサイタル
10年の時を熟して奏でる友情のハーモニー

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2012年6月26日(火) 19時開演 サントリーホール
プロコフィエフ:5つのメロディ Op.35bis
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 Op.18
プロコフィエフ:バレエ「シンデレラ」からの3つの小品 Op.95 (ピアノ・ソロ)
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ長調 Op.94

公演の詳細については

posted by Japan Arts at 17:01| 邦人アーティスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ウィグモアホールでのデビューリサイタルで成功を収めたダニール・トリフォノフにインタビュー

4月にチャイコフスキー・コンクール優勝者ガラ・コンサートに出演するダニール・トリフォノフに電話インタビューをしました。
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Q:ウィグモアホールでのデビューリサイタルのご成功、おめでとうございます。すでにショパン・コンクールの前にカーネギーホールデビューを果たすなど、世界中の由緒あるコンサートホールで演奏なさっていますが、ウィグモアホールは特別だったと思います。
A:最高の音響で、素晴らしいホールでした。ステージ上で音がよく聞こえるので、自分で音をコントロールしやすかったです。今回もファツィオリのピアノを使いましたが、あのホールにもよく合っていたと思います。

Q:緊張なさいましたか?
A:
ロンドンはもちろん、世界の中でも重要なホールなので、多少は……。でも、ウィグモアホールの楽屋には、今までにこのホールで演奏した偉大なアーティストの写真がズラリと飾ってあるんですよ。ピアニスト、歌手、ヴァイオリニスト、その他の楽器奏者などなど……感動的でしたね。そしてホール自体がとてもポジティブなエネルギーを持っているのを感じました。ですから、演奏前は緊張するというよりワクワクしていました。

Q:日本でも披露してくださるショパンのエチュードが大絶賛をうけましたね。
以前インタビューで、「コンサートでは準備されたものを披露するのではなく、コミュニケーションによって生まれたものを届けること」とおっしゃっていましたが、演奏している時は、どのようなことを感じていらっしゃいましたか?
A:音に対する敏感さが大事だと思っています。自分が弾いている音を注意深く聴いて、音楽に完全に浸ること、言い換えると、演奏しているときは全てを忘れて催眠状態に入っているかのようになるのが目標です。現実から離れて完全に音楽に浸ることができれば、音楽にもスピリチュアルな側面が出てきます。その状態で弾けば弾くほど、自分が音楽に対してどんどんオープンになっていくのです。
聴衆の反応が初めからポジティブであればあるほど、そのような状態になるのは簡単です。そして、その状態の自分の音楽を聴衆が楽しんでくださっているのがわかると、本当に嬉しいですね。ですからコミュニケーションは一方通行ではなく、インタラクティブ(相互方向)なものなのです。
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Q:日本では、ショパンのピアノ協奏曲第1番も演奏してくださいますね。ショパン・コンクールに出場された時から、今、ショパンの作品に対する考え方など変化してことはありますか?
A:
ショパン・コンクール直前の1年間と直後は、本当にショパンばかり弾いていました。ショパンについて弾けば弾くほど、いろいろと試せば試すほど、演奏は変わっていくものです。もちろんその変化は一夜にして起こるものではありませんが、何度も練習したり、コンサートで弾いたり、また他のピアニストの素晴らしい録音を聴いて新たなインスピレーションを受けたりしながら、徐々に変わっていきます。練習ではただ同じことを繰り返すのではなく、いつも何か新しいことを探しながら弾いています。そうすることで、少しずつ解釈も変わっていくのです。また、新曲を弾くときは、まずは3週間ほどみっちり練習して、それから3週間は全くその曲には触らず、そしてまた弾いてみると新たな発見があったりします。
チャイコフスキー・コンクールで弾いたのを最後に、今シーズンショパンのピアノ協奏曲第1番は弾きませんでしたが、そうですね・・・この曲も毎回コンサートによって変わってきますね。会場、ピアノ、聴衆など、様々な条件で変わってくるのは当然ですが。僕のショパンがどう変わったかは、僕の演奏をずっと聴いてくれている他の人のほうがよく判るんじゃないでしょうか。僕自身も、本番中はどういう変化が起こっているか自覚していなくても、あとから録音を聴くとわかったりしますから。

Q:今まで、世界の多くのマエストロ(ゲルギエフ氏、メータ氏など)、素晴らしいオーケストラ(マリインスキー管、ウィーン・フィルなど)と共演なさっていますが、印象的だった共演はどのコンサートですか?それはなぜですか?
A:うーん、毎回が特別で独特だから、どれか一つは選べませんが……。今名前が挙がったゲルギエフ氏、メータ氏との演奏は確かに一番印象深かったかもしれません。
ゲルギエフ氏とは、今シーズンだけでもう12〜13回共演しています。チャイコフスキー協奏曲をマエストロのもとでウィーン・フィル、マリインスキー管、ロンドン響とともに演奏していますし、ゲルギエフ指揮マリインスキー管で録音もしています。この録音にはチャイコフスキー協奏曲のほかに、リスト編曲によるシューベルトとシューマンの歌曲、そしてリストのメフィストワルツ第1番も入っていて、今年の6月か7月にはリリース予定です。
ゲルギエフ氏とはもう何度も共演しているので、彼は僕の解釈を完全にわかってくれていますし、伴奏としてのオーケストラがどうあるべきかもよくご存じです。だから僕はものすごく自由に弾けるんです。解釈についてとても自由にさせてもらえる感じで、心地よいですね。
あと印象深いのはプレトニョフ氏ですね。去年の8月、ロシア・ナショナル管とチャイコフスキー協奏曲第1番を演奏しました。それからネヴィル・マリナー氏も。彼とは去年の秋、ポーランドのオーケストラとショパンの1番を弾いたのですが、とてもエキサイティングな演奏になりました。

Q:日本で一緒に共演するセルゲイ・ドガージン、ナレク・アフナジャリャンは、以前からの友だちだそうですが、3人で演奏したことはあるのでしょうか?リハーサルはどのように行うのですか?演奏で対話をしている感じですか?それとも、言葉で考えていることなどやりとりをするのですか?
A:ナレク・アフナジャリャンとはチャイコフスキー・コンクールで会ったのが最初ですから、まだ知り合ってそんなに長くないんですよ。コンクール入賞者のコンサートがパリであったときに共演しました。
セルゲイ・ドガージンは、僕が16歳のときに一緒にコンサートで演奏したのが最初です。彼は当時サンクトペテルブルグで、僕はモスクワで勉強中だったのですが、ロシアの財団が若い音楽家にアメリカでの勉強と演奏会を用意してくれる機会があり、セルゲイと僕がそれに合格して、アメリカで出会ったのです。ちなみにこの財団の奨学金を得て、僕はクリーブランドで勉強しています。
日本に行く前の3月末にワルシャワでコンサートがあって、そこで初めて3人で共演します。

Q:それぞれ、どのような人ですか?
A:ナレクは責任感が強いですし、それにユーモアセンスのいい、楽しい人ですよ。セルゲイは去年、日本でのチャイコフルキー・コンクール・ガラのときに一緒に来日しましたが、楽しいツアー仲間になりました。彼と一緒に演奏するのは久しぶりなので、楽しみです。
音楽的には二人ともとてもフレキシブルだし、リハーサルをしていてもお互いに理解しやすかったですね。リハーサルの仕方はレパートリーによります。例えばトリオなら全員が対等に意見を出し合って作っていきますが、デュオだとピアノが伴奏的役割になることが多いので、器楽奏者がどうしたいかを中心に考えるようにします。

Q:福岡で演奏されるラフマニノフ:ピアノトリオ第2番「悲しみの三重奏」は、チャイコフスキーが亡くなったことを知ったラフマニノフが作った作品だそうですね。日本ではあまり演奏されない作品ですが、なぜこの作品を選ばれたのですか?
A:ここのプログラムではチャイコフスキーのトリオも選択肢にあったのですが、この作品は室内楽曲の中でも非常にシリアスであり、深く感情に訴えかける曲で、こういうレパートリーを準備するのは自分にとって興味があったので選びました。日本ではあまり演奏されないとのことでしたし、僕もアメリカでまだ一度も演奏されるのを聴いたことがありません。だからこそ僕たちにとってはチャレンジでもあります。楽しみにしていていただきたいですし、僕たち自身もとても楽しみです。
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Q:日本にはショパン・コンクール・ガラ公演、続いてチャイコフスキー・コンクール・ガラ公演とリサイタルなど、昨年2回来日してくださいましたが、他の都市と比べて印象的だったことはありますか?
A:どこに行っても、人もホールも食べ物も素晴らしい!どんなアーティストにとっても、日本は一度来たら忘れられない大切な場所になると思います。街の印象ではなく聴衆の印象なのですが、日本人の音楽に対する姿勢は素晴らしいですね。コンサートではいつもとてもいい反応をしてくれて、それは僕たちアーティストにとって感動的ですらあります。彼らを見ていると、いかにクラシック音楽が日本人の方々にとって大切か、よくわかります。

Q:子どものころから時間がない・・・と思っていたとおっしゃっていましたが、今もその状態は変わらないのでしょうね。久しぶりにモスクワに帰られて、何をする予定ですか?
A:一昨日モスクワに戻ってきましたが、明日また一連のコンサートに向けて出発します。これからスイス、フランス、ポーランドです。それが終わったら、クリーブランドに行って少し勉強し、またすぐにモスクワに戻って「イースター・フェスティバル」に参加します。それが終わったら日本です。

Q:ずっと忙しいですが、自由な時間が欲しいとは思いませんか?
A:暇を見つけてはクリーブランドに戻るようにしています。あそこはじっくり勉強ができるし、いいピアノがあるので心置きなく練習できます。新曲を準備するときも、クリーブランドでするんですよ。最高の環境です。

お忙しいところ、ありがとうございました。
来日を楽しみにしています!

2012年3月18日/聞き手・翻訳:高島まき
 Photo by 青柳 聡


第14回チャイコフスキー国際コンクール優勝者ガラ・コンサート

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ダニール・トリフォノフ 【グランプリ、ピアノ部門第1位、聴衆賞】
セルゲイ・ドガージン 【ヴァイオリン部門最高位(1位なし)、聴衆賞】
ナレク・アフナジャリャン 【チェロ部門第1位、聴衆賞】

アンドレイ・ヤコヴレフ(指揮)【4/27出演】
モスクワ交響楽団【4/27出演】

詳しい公演情報はこちらから

posted by Japan Arts at 14:24| ダニール・トリフォノフ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

舘野泉 フェスティヴァル2012-2013記者会見レポート

 舘野泉さんは2012年の今年から2年間かけて計16回のコンサートを行います。
 題して「舘野泉フェスティヴァル」! 現在75歳。ますます意欲的な舘野泉さんの記者会見でした。
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 この日もいつもの変わらない優しい笑顔で話し始めました。
 週末に左手のためのピアノ協奏曲を書いていただいている一柳彗氏とお話したそう。タイトルは「フィンランド」の予定。壮大な構想があるようで楽しみ、と舘野さん。左手の作品をまとめて演奏したいという構想は3年前くらいから。交流のあるウィーンのサスマン教授が「現在、左手のピアノのための作品は日本が、個性的で素晴らしい発展をとげている」と、おっしゃってくださった。いろいろ構想を練っているうちに、ソロ曲だけではなく、室内楽、オーケストラとの協奏曲も、と夢がふくらんできたそうです。徐々に考えをまとめていき、全部で16回、4つのシリーズとして行うことになりました。今回、記者会見をさせていただいているヤマハ・コンサートサロンでも「響きあう小さな部屋で」というシリーズの公演を行います。

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のどが乾いちゃったので…と言い、長年の友人(東京芸大の同級生!)であり、舘野さんのために左手のピアノのための作品も書いてくださっている末吉保雄さんが、左手の世界、左手の演奏技術についてお話くださいました。
 舘野泉さんの演奏は、熟練の域に達している…左手で演奏する時に、鍵盤を折り返してくる時のテクニックなど。新しい世界、地平が開いているのを感じる。
そろそろ、喉の渇きもおさまりましたか?と言って、質疑応答へ

―日々の生活について、気を付けていること。
「食事を作ったり、散歩をしたり、ピアノの練習をして暮れていく。ピアノは夜の10時以降は弾けないので、その後は大好きな焼酎を飲みながらニュース番組などをはしごする。最近はスポーツ選手を取材したものなどもよく見るが、演奏法の解決になるヒントをもらえることもあるんです。

 左手での演奏は長い鍵盤を行ったり来たり、それに左手だけですべてを演奏しなくてはいけないので休む間がない!とても体力が必要なんですね。それに年も年だし、そろそろ筋トレなんていうことも考えなくてはいけないかなぁ、と考えています。」

―海外での演奏活動について。
「ここ4年くらい、海外でも演奏して欲しいという依頼も多くなりました。ブダペスト、ウィーン、トゥールーズ、フィンランド、エストニアなど…また、60年来の夢でもあるモンゴルにも行って、オーケストラと共演する予定もあって、楽しみにしています。」
少しつけくわえたいのですが・・・と末吉保雄先生。
「今回の「舘野泉フェスティバル」は、我々の世代の作曲家による作品から、若手と呼ばれる年代の才能、さらに海外からも意欲的な作曲家にも委嘱するという構想です。時代も時空を超えて新たな指標を示しているのです。」

同世代(同級生!)のアーティストと演奏すると、長い時を重ねた経験、音楽に対する思いなど共有することができる。と同時に息子たちの世代の演奏家との共演も大きな意義があると感じるし、嬉しい。と、舘野さん。
 和やかな雰囲気で続いた記者会見。最後に記念撮影をして終了しました!
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第1回 新たな旅へ…ふたたび〜
2012年5月18日(金) 19時開演 第一生命ホール
曲目:
バッハ(ブラームス編曲): シャコンヌ BWV1004より 
スクリャービン: 左手のための2つの小品 作品9  前奏曲・夜想曲 
間宮芳生: 風のしるし・オッフェルトリウム(舘野泉に献呈)
 ★日本初の左手ピアノ独創曲(邦人作品)
ノルドグレン: 小泉八雲の「怪談」によるバラードU Op.127(舘野泉に献呈)
         振袖火事・衝立の女・忠五郎の話 
ブリッジ: 3つのインプロヴィゼーション 夜明けに・夜のお祈り・酒宴
 ★左手のピアニストとしての復帰を決意させた、息子ヤンネから贈られた楽曲

詳しい公演情報はこちらから

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2012年03月05日

「真の天才音楽家・リフシッツを演奏会で聴く喜び」横浜みなとみらいホールでのリサイタル(3月3日)を聴いて

『真の天才音楽家・リフシッツを演奏会で聴く喜び』

3月3日(土)13:00開演 横浜みなとみらいホール 大ホール

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番 ニ長調 K.576
ショパン:4つのマズルカ op.24 / 舟歌 op.60 / 幻想曲op.49
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ベートーヴェン:幻想曲 op.77
ピアノソナタ第15番 ニ長調 op.28 「田園」


 リフシッツは真の天才的な音楽家であり舞台人であることを横浜でのリサイタルを聴いて改めて感じました。音楽はいつも彼の傍らに親しくたたずみ、ステージの上での彼の演奏を通して自然に雄弁に音楽そして作曲家が彼の友達であることを私たちに伝えてくれます。
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 リフシッツに演奏会のプログラムについてその意図を訊ねると、いつも決まった話を始めます。それは「今回のプログラムを演劇に例えてみてください…」と言うのです。彼は演奏会のプログラムを決める上で、場所、時間などの諸々の条件の中で音楽的なストーリーを考えているようです。横浜みなとみらいホールの舞台の上でのリフシッツはシェークスピアの名台詞を演じる役者のようにモーツァルト、ショパン、そしてベートーヴェンの書いた音楽(台詞)をピアノという楽器を通して演じていました。彼の演奏会ではいつも作曲家、演奏者、聴衆の三者のコミュニケーションを体感させてくれます。
 ショパンの「マズルカ」と「舟歌」を聴きながら、ショパン自身がリフシッツに乗り移り演奏しているような強い印象を受けて背中にぞくぞくと稲妻が走るのを感じました。リフシッツの演奏を聴き「天と繋がっている」という印象を受けたと話す人が多くいるのはこのことだ、と改めて強く実感しました。そういった意味で彼は世界でも稀有な天才アーティストだと言えると思います。
 リフシッツは「バッハはいつでも私に優しくしてくれる」とインタビューで語っています。前回(2010年)の来日公演での「ゴルトベルク変奏曲」の名演、また世界中で彼のバッハ演奏が絶大な評価を受けていることからもこのことは客観的にも証明されています。
 音楽の父・バッハがその生涯を通して得た音楽的な技法そして霊感のすべてを注ぎ込み作曲した「フーガの技法」そんな音楽台本を通して3月15日の紀尾井ホールの舞台で、リフシッツの体の中にバッハその人が降臨する可能性は極めて高く、期待が高まります。



間もなく!
コンスタンチン・リフシッツ ピアノ・リサイタル
2012年3月15日(木) 19:00 紀尾井ホール

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