音の構造にこだわる人である。《悲愴》の序奏は往年の巨匠を思わせるほどに間が深いが、主部へのギア・チェンジは鮮やかで、焦燥感のあるアゴーギクとともに疾走していく。テンポの変化もダイナミック・レンジも幅が広いため表現の彫りは深く、ペダルの使用は少なめで音像は明晰。つまりは曖昧さを残さず細部まで明確に音楽を描こうという意思が感じられ、またそれを実現できるピアニストなのだ。今後の成長と熟成が楽しみな才能である。
<音楽ライター 友部衆樹>
この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。