1月17日 ヤニック・ネゼ=セガン指揮:バーミンガム市交響楽団
後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト 在ロンドン)
アメリカ出身の若きピアニスト、ジョナサン・ビスが英国のバーミンガム市交響楽団と初共演、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第3番」に挑んだ(1月17・19日、ヤニック・ネゼ=セガン指揮)。
ビスは欧米ではEMIからリリースされたシューマンのディスクで高い評価を受け、今や次世代を担う大型ピアニストとして注目されている。今シーズンはベートーヴェンのソナタ・アルバムをリリースするなど、ベートーヴェンに特に力を入れており、リサイタルでソナタを取り上げるほか、各地でピアノ協奏曲第2番、第3番、第4番を弾いている。
これまで何度かビスの演奏に接してきたが、まず耳を捉えるのは彼のタッチのしなやかさだ。どんな強い、あるいは速いパッセージにおいても打鍵のインパクトを感じさせない流麗な指運びは見事だ。しかし、そうしたテクニック以上に彼の演奏から強く感じられるのは、曲の全体像に対する深い洞察力である。ベートーヴェンのピアノ協奏曲におけるソロとオーケストラのバランスについてここまで配慮できるピアニストはなかなかいないと思う。
第1楽章の冒頭からすでにビスは音楽と一体化し、オーケストラの序奏を有機的に受けてピアノが登場する。ときにはダイナミックかつ情熱的に主張し、ときには繊細な表情を見せ、しかも全体の流れを見失うことがない。カデンツァは重厚で、彼の確かなテクニックを印象づけた。
遠隔調のピアノ・ソロで始まる第2楽章では、ロマンティックな抒情性を前面に出し、まるで音の詩人のようだ。終楽章のロンドでは、欲をいえばもう少し歯切れがあってもよいかと思ったが、終始オーケストラと活発な対話を繰り広げた。
『ガーディアン』紙の評でも「ビスの演奏は非常に流麗かつクリアで、しかも高い集中力がある。モーツァルト的な優美さと革命的な情熱を組み合わせたアプローチには豊かな感受性が感じられ、今後ますます深みを増すだろう」と賞賛された。
日本でもリリースされたCDが話題になっているというビス。東京でもフレッシュな演奏が披露されるにちがいない。