2012年06月07日

2度と再現し得ないLiveな音楽を生み出すピアニスト 河村尚子

 河村尚子からますます目が離せない。もちろん近年急速に注目度を高め、多くの音楽好きを虜にしているピアニストなのだが、そうしたレベルを超えて、本当に1公演たりとも逃すことができないのだ。
 今年接したのは4つのコンサート。3月7日トッパンホールでの、珍しくも大胆な「オール・プロフィエフ・プロ」によるリサイタルでは、グルーヴ感のある鮮烈な演奏を聴かせ、同時に亡き師クライネフを通して、彼女の中に“ロシア”が息づいているのを感じさせた。3月12日紀尾井ホールでは、佐藤俊介(ヴァイオリン)、堤剛(チェロ)とトリオを組み、ドヴォルザークとチャイコフスキーの大作2曲というヘヴィーなプロで、スリリングな熱演を披露。3月24日横浜では、ラザレフ/日本フィルとブラームスの協奏曲第1番を瑞々しく競奏し、重厚な同曲のピアノが作曲者青年期の繊細でフレッシュな魅力に溢れていることを露にした。
 そして4月25日には、ノリントン/N響とベートーヴェンの協奏曲第4番を共演。あのノン・ビブラートの巨匠相手に彼女は一体どう弾くのか?と誰もが注視する中、舞台中央に立つ指揮者を演奏者全員が取り囲む配置と相まって、全てが清新なベートーヴェンとなった。公演後彼女は、「奏者の皆さんの顔を見ながら弾けるし、オケの音がよく聞こえるのが新鮮。ノリントンさんとはイメージを話し合い、ペダルはあまり使わないようにしました」と語っていたが、河村の凄さは、ただマエストロに従うのではなく、その流儀の中でさりげなく自己主張を行う点。通常より倍速いテンポで短く奏されるオケに対して、やや遅めのテンポで抒情的に対抗した第2楽章の掛け合いなど、思わずニヤリとさせられた。
 かくの如く、形態や楽曲ごとにしなやかな変貌を遂げるがゆえに、どの公演も聴き逃せない。彼女の、共演者との協調と自己主張の絶妙なバランス、さらには常にみせる「音楽することの愉しさ」は、2度と再現し得ないLiveな音楽を生み出す。その意味で、個性の強い一流指揮者との協奏曲は、実に興味深いものとなる。
 来たるプレトニョフ/ロシア・ナショナル管とのグリーグの協奏曲は、そうした醍醐味極まる公演だ。何しろ相手は「毎回何が起きるかわからない稀代の個性派」にして「ピアノを知り尽くした」プレトニョフ。曲は、一定の表現が定着しているグリーグである。河村は、「プレトニョフは『尊敬するピアニスト』、曲は、リストのアドバイスを反映したピアニスティックなソロをもつ、『抒情小曲集』の連なり」と語る。内に息づくロシアとマエストロへの共感が佳きケミストリーとなって、イメージを刷新するようなグリーグが姿を現す─そんな予感に胸が踊り、本番が心から待ち遠しくなってくる。

文:柴田克彦(音楽ライター)



プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2012年日本公演
2012年6月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール
 ヴァイオリン:樫本大進
2012年6月23日(土) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 ピアノ:河村尚子
russian_flyer.jpg
公演の詳細はこちらから
posted by Japan Arts at 11:11| 邦人アーティスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。