2012年05月08日

インタビュー アレクサンダー・ロマノフスキー

「大好きな作品を選んだ」 プログラムへの考え
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─紀尾井ホールのプログラムは、どのようにして選んだのですか?

 まず何よりも、僕が好きな作品を選びました。おもしろいプログラムだと自負しています。前半は、のちのロシア音楽に音楽的アイデアが影響を与えたブラームスと、ロマンチシズムが大きな影響を与えたシューマンというふたりの作曲家をとりあげます。そして後半は、大好きなロシア音楽です。ロシアの作曲家たちは僕にとって近く、伝えやすい音楽なのです。
特にラフマニノフは感覚の重なる部分が大きくて、自分自身の性格にとても似ていると感じます。家族や友人を大切に思っていたところや、大きな手も似ているんですよ(笑)。今回演奏するソナタの2番は、聴衆のみなさんからも愛されている作品です。彼のアイデアや愛、想い、さまざまな感情が凝縮された形で詰まっています。実は、ラフマニノフのソナタ1番も好きなのですが、やはりとても大きな作品で誰しも一種の恐れを抱くのか、あまり演奏される機会がありませんね。

─練習曲「音の絵」からの4曲も演奏されます。演奏中、何か具体的なイメージは思い描くのでしょうか?
 僕は演奏にあたって、もともと具体的なイメージを持つほうではありません。特にこの作品については、ラフマニノフ自身も具体的な「絵」を想像して演奏することは好まなかったと聞いています。嵐の海を低く飛んでゆく鳥のイメージなど、さまざまな絵を描くことも素敵だとは思いますが、僕自身の演奏中について言えば、「感情の絵」というのがもっとも近いですね。自分の心の中にある感情を音で表すだけです。

─ハイドンのソナタについてはどのような理解をされていますか?
 ハイドンは驚くべき作曲家です。彼の音楽には、悲劇的な要素とポジティブな感情が共存しています。今回は最後のソナタを取り上げますが、作風が限りなくロマン派に近づいてきている、彼の芸術性が熟した作品です。

─ブラームスのパガニーニの主題による変奏曲は、すでに録音もリリースされていますね。この作品については、どのような理解で演奏しているのでしょうか?
 ブラームスの作品群の中で、最も難しいもののひとつだと思います。パガニーニの主題は、おそらく作曲家にとって心を惹かれ、手を出さずにはいられないモチーフなのでしょう。他にもラフマニノフなど、たくさんの作曲家が好んで作品に用いていますね。ブラームスはこの主題を、自由な想像力から実に多様な音楽の権化に変えてみせています。だからこそ、演奏するときに大切なのはとにかく型にはまらず自由であること。そうすれば、大きな可能性が広がります。めまぐるしい展開に、比較的長い作品であるにもかかわらず、たった数分間に感じるのではないでしょうか。

─これまで、録音でも変奏作品を多く取り上げていますよね。
 意図的にそうしているわけではないのですが、想像をかき立てられる変奏曲集は、確かに好きです。

─読売日本交響楽団との共演では、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏されます。
 ラフマニノフのピアノ協奏曲が持つ優雅な音楽の世界は、僕にとって格別です。どれほど多くの美しいメロディにあふれていることでしょう! 技術的には3番のほうが難しいかもしれませんが、2番は、作曲家の記した極上のメロディを真に美しく聴き手に伝えることがとても難しい作品です。ラフマニノフの音や本当の姿を、素直に、純粋に表現することは、簡単なようで実はとても難しいのです。

─日本のオーケストラである読売日本交響楽団との共演、篠崎氏との共演に期待しているところはありますか?
 指揮の篠崎氏とは以前フィンランドでショスタコーヴィチのピアノ協奏曲(第1番)を共演したことがあります。再びご一緒できるのがとても楽しみです。
 日本のオーケストラとの共演は、実は今回が初めてです。日本の音楽家の皆さんは、音楽に対して真摯な方たちがとても多いと聞いています。そんな彼らとともに、音楽をよく理解する日本の聴衆の皆さんの前で演奏できるこのコンサートは、僕にとって大変責任ある、重要なものになると思います。


「一瞬にして大きく変化する人生」 これまでの歩み
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─若いころから著名な指揮者と共演を重ねていらっしゃいますが、あなたにとって特にゲルギエフ氏との出会いはどのようなものでしたか。

 彼は信じられない人で、世界で最も素晴らしい指揮者のひとりです。彼と演奏する機会を得たことは、僕の人生の中で一番幸運な出来事のひとつでした。素晴らしい指揮者はたくさんいますが、彼ほどダイレクトに心に訴えかける音楽をする人はいません。

─恩師のレオニード・マルガリウス氏からの影響はどのようなものでしたか。
 もしもあなたが僕の演奏を好きだとすれば、この演奏は完全にマルガリウス先生との出会いのおかげで生まれたものだと思っていただければ(笑)。先生は、ホロヴィッツの実姉であるレジーナ・ホロヴィッツの愛弟子です。だから、僕にとってホロヴィッツは単に偉大なピアニストであるだけでなく、音楽的に祖父のような存在でもあります。
 僕がピアノを最初に習ったのは、ウクライナのナタリア・クロア先生です。当時ピアノは絵やダンスなどいくつかの習い事のひとつでしたが、先生は僕にピアノの才能があるから、ハリコフの特別な中央音楽学校に入るべきだと強く勧めてくれました。そこで、マルガリウス先生に会うことがでました。これは僕にとって大きな転機でしたね。それまで、僕はどこにでもいる普通のピアノの上手な子供でしたが、まったく別の世界に出会ったのです。
 ですがそのとき先生はウクライナから永遠に去り、イタリアへ行ってしまうところでした。その後しばらくして、僕たち一家は、僕が引き続き先生のもとで学べるようにするためだけにイタリアへ移住しました。決してウクライナを離れたくて離れたわけではありません。両親にとっては大変な苦労のある時期だったと思います。文化や言葉がまったく違う環境の中でも、生活をたてるためにたくさん働かなくてはいけませんでしたから。両親と妹には本当に感謝しています。
 マルガリウス先生は、すばらしい演奏家であり、作曲家です。そして、音楽だけでなく、映画や文学などすべての芸術のことをご存知です。先生の家にはピアノがあって、家具がほとんどなく、その他にあるものと言えば溢れるほどの本ばかり。その家を夕方ごろ訪ねて、少しピアノを弾いたあとは、映画や文化など本当にたくさんのことについて話をしました。先生のもとでは14年間学びました。今も交流は続いていて、いつもメッセージをくれますよ。

─人生の中で、良い人たちと出会い、チャンスを掴んでここまでやってきたのですね。
 はい、その通りです。現在師事しているドミトリ・アレクセーエフ先生との出会いもそのひとつです。先生のもとで学ぶようになったとき、僕は23歳と既にピアニストとしてある程度自立していましたが、先生の見解を聞き、これまでにない異なった角度から音楽を見ることは本当に興味深いのです。先生はまだ60歳と若いので、これからもいろいろなことを学びたいですね。
人生は、何かが起きると一瞬にして大きく変化する。本当におもしろいものです。

─好きな音楽家は誰ですか?
 たくさんいて名前を挙げるのは難しいですが、もちろんまずはホロヴィッツ。大切な人物です。音楽とは、聴く人に何かを感じさせるものでなくてはいけません。ドキドキする興奮、じんとするような安らぎ、ざわめくような不安……ただ聞き流されるようでは充分でありません。ホロヴィッツの演奏は、どれも聴く者の心に「跡」を残します。僕もそんな演奏家でありたい。聴いている方と一体となる、感情のやりとりがある演奏会をしたいと思いながら、いつもステージに立っています。
 ヴァイオリニストでは、ダヴィド・オイストラフ、指揮者では、ムラヴィンスキーやカラヤン、バーンスタインも好きです。
ピアニストでは、グレン・グールドですね。録音もよく聴きますよ。彼は常に何かを模索しながらピアノに向かっていた。とても尊敬しているピアニストのひとりです。


「愛猫は一番近くて厳しい“聴衆”」 リラックスする時間

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─生活の中であなたの音楽にインスピレーションを与えるものは何ですか?
 音楽ほどにすばらしいものは、他にありません。誰かが演奏しているその瞬間に、流れて消えてしまう。確かにそこに存在するけれど、どこにも形がない。だからこそ他のどんな芸術と比べても、もっとも直接的に心に届くのではないかと思っています。音楽とは、自分自身がそのまま投影されるものです。悪い人間が良い音楽家になれるはずはありません。僕の普段の行い、態度のすべてが、音楽にふさわしいものでありたいと考えて日々生活しているだけです。

─小さいときは、どんなお子さんだったのですか?
 静かで、いろいろなことに好奇心を持つ子供でした。今と同じです(笑)。見るものを端から、これ何? どうなっているの? どうして? と尋ねるような。そして音楽はもちろん、芸術全般が好きでした。僕に音楽の道に進む資質があったことを、とても幸運に思っています。
でも音楽ばかりしていたわけではないんですよ。学校の勉強も好きで、成績もけっこう良かった(笑)。歴史にしろ、数学にしろ、勉強しなくてはいけないというよりは、興味があって知りたくなってしまうから勉強していたように思います。

─とても可愛がっている猫がいるそうですが。
 はい、ウクライナを離れる3日前に飼い始めた猫で、もう15歳です。僕がピアノ弾いているとやって来て、足元で横になり何時間もじっとしています。時々、ダンスをすることもあるんですよ。バッハやロシア音楽が好みのようです。テレビから好きでない音楽が流れると、プイッとどこかへ行ってしまいますから、やはり好き嫌いがあるのでしょう。僕の練習中はそういうことがないので、良かったです(笑)。一番身近であり、厳しい“聴衆”ですね。

─何か趣味はありますか?
 旅行や歴史が好きなので、ある街を訪れるとできる限りあたりを散策します。そうして新しい発見をするのが楽しいので。読書や古い映画の鑑賞も好きです。そして時事や世界のニュースは現在進行形の歴史ですから、とても注意を払って見ています。
昨年日本を襲った震災には、本当に胸が痛みました。あの時はさまざまなニュースが流れてきましたが、時が経つにつれ、報道が減ってしまったように思います。今、被災地のみなさんはどんな状況なのでしょうか……。震災後の日本のみなさんの強く勇敢な姿勢には本当に心を打たれました。互いを思いやり、助け合う精神。そんな日本の方々ならばあのような悲劇も必ず乗り越えることができるだろうと、世界中が信じたと思います。

─来日で楽しみにしていることは?
 16歳のとき初めて日本を訪れました。今度が3度目です。日本の文化にはとても魅かれていて、実は少し日本語を勉強しています。いくつかの単語やフレーズは話せるんですよ。
 日本食ももちろん大好きです。時間があれば、本格的な日本食のお店に行ってみたいですね、高級でなくていいから(笑)。今回は東京だけですが、これをきっかけにまた日本に来て、もっと他の街も訪れることができたらと期待しています。日本のみなさんは音楽に対してとても感受性が強いので、音楽を通じた共通言語を見つけ、近づき、親しくなれるだろうと確信しています。早くみなさんに僕の演奏を聴いていただきたい。僕も楽しみにしているので、みなさんもどうぞ楽しみにしていてくださいね!


来日記念盤3タイトル 5月16日に発売されます!
デッカ SHM-CD 各¥2,600(税込)
巨匠指揮者ジュリーニに「途方もない才能」と賞賛されたロマノフスキーが、イタリア・デッカでリリースされている3つのアルバムを来日記念盤として一気にリリースします!

シューマン:交響的練習曲、ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲
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ラフマニノフ:練習曲集《音の絵》、コレッリの主題による変奏曲
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ベートーヴェン:ディアべッリの主題による変奏曲
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視聴や詳しい情報はアレクサンダー・ロマノフスキー公式ホームページにてご覧ください!
http://www.romanovsky.it/web/music.aspx


『アレクサンダー・ロマノフスキー ピアノ・リサイタル』

2012年5月22日(火)19時開演 紀尾井ホール
<曲目>
 ハイドン: ピアノ・ソナタ 変ホ長調 Hob XVI-52 
 ブラームス: パガニーニの主題による変奏曲 Op.35 第1部・第2部
 ラフマニノフ: 練習曲「音の絵」Op.39 より
          第1曲 ハ短調
          第2曲 イ短調
          第3曲 嬰へ短調
          第5曲 変ホ短調「アパッショナート」
 ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.36

詳しい公演情報はこちらから

posted by Japan Arts at 10:43| お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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