2012年05月07日

「あの大きなロシアの大陸を・・・・」河村尚子、ロシア・ナショナル管弦楽団との共演に寄せて

kawamura(C)Ariga Terasawa.jpg

取材・文 青澤隆明

―ロシア・ナショナル管弦楽団との6月の共演がいまから楽しみです。グリーグのピアノ協奏曲は河村さんからの提案だそうですが、この作品にどのような愛着をおもちですか。
「去年の1月に読売日本交響楽団と演奏して、改めてこの作品の魅力に惹かれました。旋律の美しさはもちろん、ソロとオーケストラの展開のしかたが素晴らしいのだという気持ちが、私のなかでとても高まってきて。特別な和声と、第2楽章の旋律の豊かさや美しさが、やはりいちばんの魅力だと思います。第3楽章のロンド的な、舞踊的な部分も好きです。この曲はとても絵画的ですよね。ノルウェーというお国柄もあって、私は童話的な曲想を強くイメージします。こびとがたくさん出てきたり、フィヨルドの景色がぶわーっと湧いたり。明確につくられているから、聴きやすく、愛される曲なのだと思います」。

―他の協奏曲にはない独特の魅力がありますね。
「リズムの使いかたが特徴的で、ほんとうに躍動感に溢れている。急に3拍子から2拍子になる部分を、わざとルバート気味にさせるところとか。それから、ちょっとショパンを思わせますが、第2楽章の始まりは、ピアノがほんとうにオペラのアリアをふくらませるようにして、そこにオーケストラが入って流れこんでいく。そんなところも魅力的ですね」。

―ロシア・ナショナル管弦楽団との共演には、どのような期待をおもちでしょうか。
「このオーケストラとは、7年ほど前に一度共演したことがあります。スピヴァコフの指揮で、ショパンの協奏曲第1番を弾きましたが、モスクワ音楽院の大ホールで演奏させていただけるというので、それこそ大喜びで、どぎまぎしていました。ロシアのオーケストラ特有の深い音を出して、いったん波に乗ってしまえば勢いが良すぎて誰も止めることができない。モダンなロシア、西洋の香りの入ったロシアの音楽家が多く活動していますので、彼らが新しい風を送りつつ、みんなで音楽をつくるオーケストラなのではないでしょうか。7年前に共演したから同じオーケストラだとは思わず、新たな気持ちで取り組みます」。

―協奏曲の演奏経験を多く積まれて、ご自身の演奏も7年前とはだいぶ違うでしょう?
「まったく変わってきていると思います。いろいろなオーケストラとの共演の機会をいただき、曲の聴かせどころがわかってきた。オーケストラを聴かせる場所、いっしょに波に乗る場所・・・・いろいろな役目があって、全体で劇をしているような。人生のなかでもそうですけれど、サポート側になったり、主役になったり、いっしょに騒ぐパーティーがあったり、という感じなのではないかと思います」。

―ピアノの音色への想像力も、オーケストラとの音楽づくりでは、趣が違ってきますか。
「たとえば、グリーグの第3楽章のコーダでは、タンバリンなどの打楽器もイメージできますね。ただ、木管楽器が旋律を歌うときはほんとうに美しいので、それに負けないくらいにピアノの声を美しく歌いたい。人間の声を目指すのがいちばん自然だと思います。歌を共通点にすれば、違う音色が出てくるけれど、やはり語り合っているわけですから」。

―ロシア音楽やこの国への個人的な思いをお聞きしましょう。
「一言にすれば無限ですね。ほんとうに大きい心をもった人がたくさんいる。何にもしばられず、広くて寒い国なので、みんなひとつになるということが得意なのだと思います。だから、とても情熱的。自国への誇りを強くもった人たちでもあるので、正々堂々と自分たちの音楽を奏でるのだと思います。ドイツへ行き帰りする飛行機のなかから眺めていても、平地がずっと続いている。食べ物も脂っこいものがたくさんで、食事も大盛りですから、みなさん体格が大きい。そこから滲み出てくるのが、ロシア特有の音楽なのだと思います。私は個人的にロシアのオーケストラと共演するのが好きですね。彼らはリハーサルでもお喋りしたりして、なんというか、お行儀が悪いんですよ。それが本番となると、音楽を愛していて、パッションがあって、みんな一所懸命弾く。音楽性があるから、愛があるからこその音楽。正確さよりも自由さがあり、天真爛漫なところも魅力ですね」。

―指揮者のミハイル・プレトニョフは、天才的なピアニストでもあるので、共演には独特の思いをもたれているのではないでしょうか。
「偉大な音楽家で、作曲も指揮もして、ピアノも素晴らしい。才能がありすぎて怖い。ピアノはもう弾かないそうですが、独特の旋律の歌い回しなどほんとうに強烈ですし、いろいろな感覚をマルチにもっていて、ピアノだけには収まりきらない人なのだと思います。こんなにも偉大なピアニストのそばで、ピアノを弾くというのは、ほんとうに怖ろしいことです。私が弾いていいのか、という恐怖があります。でも、引き受けてしまった(笑い)。ほんとうにいい経験になると思います。とても楽しみですね、恐怖もあり、楽しみもあり・・・・」。

―ロシア楽派のピアニストという流れでいうと、河村さんの先生のウラディーミル・クライネフを遡ると、ネイガウス父子に行きつきます。プレトニョフはヤコフ・フリエール門下でしたね。河村さんはロシア・ピアニズムについてどのようにみられていますか。
「ロシアン・スクールでは、100年前にモスクワ音楽院に集まっていたピアニストが触発し合って、異なるルーツの良いものすべてを凝縮していった。それをロシアの味つけにして、学校制度も含めて、技術的な面を徹底した。皆さん粒揃いのテクニックをもっていたのは素晴らしいことだと思います。技術あってこその音色、旋律のつくりかた、フレージングが活きている」。

―クライネフの教えで、河村さんのなかに大きく生きているのはどんなことですか。
「まず、作曲家が楽譜に書いたことを忠実に守る。そして、情熱と愛を注ぐということですね。『死んだ音楽だけはやめてくれ』と。ロシア音楽を演奏するときは、『あの大きなロシアの大陸をみろ、ドイツなんてこんなに小さいんだ』とよくおっしゃっていました。それだけスケールが大きく、寛容なスピリットがあるということですね。ロシアの言葉を話して、ロシアを訪問するたびに、『ああ、こういうことを言っていたのか・・・・』と思えてきました」。



プレトニョフ指揮 ロシア・ナショナル管弦楽団 2012年日本公演
2012年6月15日(金) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール

 ヴァイオリン:樫本大進
2012年6月23日(土) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 ピアノ:河村尚子
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公演の詳細はこちらから
posted by Japan Arts at 15:41| 邦人アーティスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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