「確かに私にとっては大きな意味のある作品です。コンサートのプログラムというのは、演じる側から聴く人々への“語りかけ”です。本を読むとき、ページをめくるごとに出来事が転回していくように、フーガが多様な変化を繰り返していく。弾きながら私が感じていくその移ろいを、聴衆の皆さんにも感じていただければと思います。」
−「フーガの技法」について、学術的で固いイメージを持っている方が多いと思います。聴衆としてこの作品を楽しむポイントを教えていただけますか。
「《フーガの技法》は高くそびえ立つ山。簡単には最高峰に登りつめられない。聴くのも難しいし、演奏家にとっても難曲です。それだけに、これぞと思う音色や美しさが見つかった時は大きな満足を得られます。日本で弾いてみたいとずっと願っていました。「フーガの技法」は日本の伝統芸能である「能」を髣髴させるのです。とても日本の人々に近いイメージがあります。ただ、日本の音楽の捉え方は、我々ヨーロッパ人の予測とは違うことがよくあります。反応を予測するのは難しいです。」
−日本では大地震、ヨーロッパでは経済状況の悪化など、世界中が難しい状況にあります。このような状況下での音楽家の使命をどのようにお考えになりますか。
「日本は昨年3月に本当に大きな悲劇におそわれました。そのような時こそ人はより音楽を求めるような気がします。大変な状況にある時ほど、音楽の果たす役割は大きくなります。そう考えると、私たち音楽家は、いつになく大きな責任を担うことになります。ロストロポーヴィチは、「音楽は美の兵隊だ」と言いました。世界が厳しい状況にあり人々が悲しい出来事に見まわれた時に、音楽を始め、芸術の力が救いになれると思います。そのような自覚を持ってステージに立たねばなりません。
何らかの形で、少しでも貢献したいと思っています。」
≪公演情報≫2012年3月15日(木) 19:00 紀尾井ホール
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