2011年11月11日

「フーガの技法」を聴いて[コンスタンチン・リフシッツ]

ひとつの宇宙をなす一夜のリサイタル
コンスタンチン・リフシッツ 4月28日 ウィグモアホール 「フーガの技法」を聴いて
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 「もっとも挑みがいのある作品だった」とその録音を振り返り語ったこともある、バッハの『フーガの技法』BWV1080。最晩年のバッハが取り組んだものの、未完成のフーガ1曲を残したまま中断され、その死後に出版されたこの作品。構成などに今なお謎が残るともされるが、リフシッツはどのように演奏するのか。バッハの世界に魅了されてきたリフシッツが臨んだ、深遠な世界──。

 それは、バッハが表したかったであろう世界をくっきりと示すものであった。
 客席にやや背を向けるように、時にピアノの低弦部分を覗きこむようにしながら、静かな佇まいで鍵盤に向かうリフシッツ。
 そこから紡ぎ出される音は、深く、透明感のある音。初めの単純なフーガはひたすら音を慈しむように。そして、声部が増え、それらが絡みあうようになっても、その技巧的な部分をまるで感じさせない。曲ごとにそのテーマが広がるにつれ、ひとつひとつの声部が語りかけてくるよう。基本的にはノン・ペダルで弾きすすめ、ペダル・ポイントでは、楽器全体をホール中に、存分に、響かせる。リフシッツと客席が一体となってその響きに身を投じる時の幸福と言ったら!
 バッハ自身は鍵盤楽器以外での演奏も可能性に入れていたともされる『フーガの技法』であるが、あえて現代ピアノで弾きたいとリフシッツ自身が語った理由がよくわかる。オルガンでも弦楽器でもなく、現代のピアノによって、このひとつのテーマを掘り下げていくことの面白さ。ピアノの響きで複数の声部がくっきり立ちあがる、その妙──もっとも、リフシッツなら、ピアノでなく、どの楽器を奏でてもこの作品の宇宙を作りあげてしまうのかもしれないと思わせられるが。
 静かに弾きはじめられた単純なフーガから反行フーガへと進み、鏡像フーガでの時に激した表情、そして悠然と主題と応答が示されるカノン。
 最後には、その出版譜において、未完成に終わったフーガの穴埋めとして付け加えられたというコラール『われ汝の御座の前に進み出て』BWV668aが演奏されたが、もちろんその演奏は穴埋めどころではない。この日のすべての曲のどれを欠いても、画竜点睛を欠くことになっていたに違いない。それほど、この一夜のリサイタルは、ひとつの宇宙を成すものとして完全に構築されていた。

音楽ライター:阿部恭子



posted by Japan Arts at 20:01| コンスタンチン・リフシッツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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