後編「来日にむけて」
チョ・ソンジンのピアノの魅力のひとつは、ホールのすみずみまで響くしっかりとした音、歌心があり、力強く熱っぽくなっても逸脱することなく、どこまでも安心感を与える、端正な音楽にあると感じます。
取材の最中、傍らで静かに微笑みながら優しいまなざしで見守るお母様の様子を見ていると、彼は子供の頃から、強制されることなく、のびのびまっすぐにピアノにむかってきたのだろうな……と感じます。そしてまさにその印象に似た、ピュアな音楽を聴かせてくれます。
今回の来日ツアープログラムは、ショパンのバラード全曲と、リストのロ短調ソナタ。2009年の浜松コンクール3次予選のリスト『ダンテを読んで』では、何かとても確信に満ちた構成、そして力強さの中に哀愁をはらんだ表現を聴かせたことから、同じくリストの精神世界を示すような作品であるロ短調ソナタには、特に期待ができそうです。
伸び盛りの17歳。今後もさまざまな人生の経験とともに、その音楽はより豊かに、深みを増していくことでしょう。チョ・ソンジンについて紹介するコラムの後編では、彼の素顔にまつわるちょっとしたエピソードと、来日にむけての想いをご紹介します。
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─ピアノを弾くにあたって一番大切にしているのはどんなことですか?
ピアノを演奏することは、音楽と楽譜を解釈し、聴衆に伝えるということです。常に作曲家が一番であり、譜面に敬意を示すようにしています。そして聴いてくださる方がいなければ演奏する理由はないので、自分のために弾いているという感覚はありませんね。
─ステージに上がる前に必ずすることは何かありますか?
手を洗います。ちょっとしたクセのようなものです。ただ普通に洗うだけですが。手に汗をかきやすいからかな(笑)。
─今後、どんな活動をしていきたいですか?
もっともっと勉強したい。そして、80歳までピアノを弾き続けていられるピアニストでありたいです。
─ご存知のとおり、東日本大震災後の日本は大変な状況にありますが、今の日本で演奏をすることをどうお考えですか?
震災の起きた3月11日、僕は福岡にいました。揺れを感じたのはもちろんほんの少しでしたが……。その後、浜松アカデミーに参加するため浜松に行きましたが、震災の影響でアカデミーは中止になりました。テレビから流れる被災地の映像は、とてもショッキングで悲しいものでした。
今、再び日本に戻ってコンサートができることを心から嬉しいと思います。皆さんにまた会えることをとても楽しみにしています。
インタビュー・文:高坂はるか(音楽ライター)
とてつもない才能の出現―
『チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル』
2011年11月28日(月) 19時開演 東京オペラシティコンサートホール
曲目:
ショパン: バラード 全4曲
★バラード全曲は、以前より是非挑戦してみたいと思っていました。ストーリーのある特別な作品です。作品を通じてショパン人生をお見せすることが出来たらと思っています。
リスト: ピアノ・ソナタ ロ短調
★9歳の時に初めて聴いて強く魅かれた作曲家、リスト。
「生誕200周年」を記念して選んだこのソナタは、リストの作品の中で最も気に入っている作品の1つです。
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