2011年09月01日

河村尚子がワイマールの音楽祭に出演

2011年10月10日ヤノフスキ指揮 ベルリン放送交響楽団にソリストとして出演する河村尚子がワイマールの音楽祭で演奏を披露しました。
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 ピアニストの河村尚子がこのところ目覚ましい活躍を続けている。2011年に入ってから日本とドイツで精力的にリサイタルを行う一方、6月初頭にはロシアの名門サンクトペテルブルク・フィルと初共演を果たした(アレクサンドル・ドミトリエフ指揮。演目はリストのピアノ協奏曲第2番)。その直後、今度はワイマール郊外にあるエッタースブルク城で今年から始まった精霊降臨祭期間中の音楽祭に出演し、「アーティスト・イン・レジデンス」として計4回のリサイタルを任されたというのだから、その期待の大きさが伺われる。筆者は6月13日のマチネー・コンサートを聴くべく、ワイマールに足を運んだ。
 この音楽祭の出演のきっかけは、昨年リストのワイマールの住まいだった「アルテンブルク」で河村が行ったリサイタルだったという。その時会場にいたフランツ・リスト音楽院教授で、リスト研究の権威でもあるヴォルフラム・フシュケ教授が河村の演奏に注目し、新しい音楽祭で弾いてみないかと打診したそうだ。プログラムは「生誕200年のリストに関連した作曲家の音楽を」という条件のみで、あとは彼女自身のアイデアにゆだねられた。その結果生まれたのが、バッハやドイツ・ロマン派の変奏曲を特集した夜、オール・シューマンとオール・ショパンの2回のコンサート、そして「音楽と文学」をテーマにしたサロン風コンサートという、河村の知性を感じさせるプログラミングだ。
 エッタースブルク城はワイマールの駅から車で北に20分ほど行った山中にある(ちなみに、ここからさらに歩けば、ナチス時代のブーヘンヴァルト強制収容所跡にたどり着く)。この城は、18世紀に芸術のパトロンとして知られたアンナ・アマーリア大公妃の夏の居城として造られた。ドイツ統一後は老朽化が進んでいたが、最近大改装を施し、美しく生まれ変わったばかり。今年が第1回ということで知名度こそまだ低い音楽祭だが、芸術の保護に力を入れたアンナ・アマーリア縁の場所で大きな舞台が与えられたというのは、河村にとっても名誉なことに違いない。
 私が聴いた「シューマンへのオマージュ」というプログラムは、前半と後半に『ウィーンの謝肉祭の道化』からそれぞれ1曲、そして『クライスレリアーナ』と『フモレスケ』という2つの大曲が並べられた。前半の『クライスレリアーナ』で河村は、静と動、デモーニッシュな迫力と天国的な恍惚さ、憧れと絶望といった、この作品に内在する対極的な要素を丁寧かつドラマチックに描き出す。特に印象に残ったのは、第2曲での各主題の表情のたくみな弾き分け、第6曲でのどこかなつかしさを感じさせる叙情などで、第7曲での堰を切ったような音の奔流にも圧倒された。会場のゲヴェア・ザールはお城の中の小さなホール。窓の外からは音楽に混じって小鳥の鳴き声が聞こえ、休憩中聴衆は谷に面した遊歩道を散歩できるようになっている。音楽と自然との垣根がここにはなく、ドイツ・ロマン派の世界に突然迷い込んだような、そんな贅沢な時間を味わった。
 後半の『フモレスケ』は、精妙で親密な情感のこもった冒頭の歌い回しから惹き込まれる。『クライスレリアーナ』におけるデモーニッシュさはここでは後退するが、どちらの曲も河村のピアノで聴くと、シューマンが込めた壮麗な音の風景が、すっと心に入って来るのである。この「自然さ」は、彼女がドイツで育ち、この国の言語や自然環境に囲まれながら研鑽を積んできたこととも関係しているのだろうが、河村の魅力はそういった出自や背景を越えた固有のものになりつつある。アンコールに奏でられたリスト編曲による『献呈』は、これまた素晴らしく心に沁み入る演奏。
 この秋、ベルリン放送交響楽団の日本公演のソリストとして来日する河村尚子。いま大きく羽ばたこうとしているピアニストに出会えたことをうれしく思った。

中村真人(音楽ジャーナリスト/ベルリン在住)


berlin_flyer.jpgマレク・ヤノフスキ指揮 ベルリン放送交響楽団

2011年10月10日(月・祝) 14時開演 横浜みなとみらいホール
 「エグモント」」序曲 作品84
 ピアノ協奏曲第5番「皇帝」変ホ長調 作品73(ピアノ:河村尚子)
 交響曲第3番「英雄」変ホ長調 作品55


2011年10月14日(金) 19時開演 東京オペラシティコンサートホール
ブラームス:交響曲第3番 / 第4番

詳しい公演の情報はこちらから



posted by Japan Arts at 16:27| 邦人アーティスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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