2011年05月12日

アレクサンダー・ガヴリリュクのインタビュー

今回のプログラミングについて、震災後に来日し、演奏することの意味を語りました。
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─リサイタルはとても多彩なプログラムですが、どのように選曲されたのですか?
 新しいレパートリーに加えて、若い頃に演奏した作品を再び取り入れました。経験と知識がついて当時と異なる認識をするようになった音楽を、また日本のみなさんと共有したかったのです。
たとえばショパンには、新しい境地を感じています。正しいスタイルで演奏されたときに生まれる力強さ、ポーランド人の魂や、深い悲しみ、人間の内面にある影や美しさ。作品をますます愛するようになりました。また、16歳で初めて演奏したベートーヴェンの『月光』にも、無限に発見の可能性があります。ベートーヴェンの、悲劇、そして自らの運命の受容、古典的な美しさの中にある、精神的な力強さ。……と、語ることはたくさんできますが、言葉は音楽にどんなに近づいても言葉でしかありませんからね。

─プロコフィエフの協奏曲第2番は、昨年アシュケナージ氏と録音されている作品ですね。どのように音楽を創っていかれたのですか?
 なぜこんなにもこの作品が感情的で力強いのか。その理由のひとつは、この作品を捧げた彼の親しい友人の自殺もあるでしょう。それに加え、暗いものが社会を覆っていた当時の時代背景も大きいと思います。僕はウクライナで育ちましたから、ロシアのそうした感覚を理解しやすいのかもしれません。
 答えを探してもがきながら、少しずつ深く入っていきます。そして時代背景や作曲の経緯を学んだ上で長い時間ピアノに向かい、真実を見つける努力をするのです。ステージでは何も考える必要のない、ただ音楽を解放してゆくだけの状態になっていなくてはいけません。

─アシュケナージ氏をはじめ、著名な指揮者やオーケストラとの共演は、どのような経験となっていますか?
 アシュケナージ氏の作品に対峙する、ポジティブで健康的な姿勢にいつも感動します。彼の前ではなぜか楽に自由になることができて、質問をして話あうことができる。すばらしい経験です。
 優れた音楽家と共演するとき、僕はステージでとてもリラックスできます。共演者が伝えたいことをすぐに理解してくれるので、自由に自分の表現をすることができるからです。学ぶことも多く、貴重な経験ばかりです。

─ここ最近、音楽以外のことで変化はありましたか?
 やはり3年前に結婚したことですね。人生に、すばらしい変化をもたらしました。演奏も変わったと思います。音楽をはじめ、人生の特別な経験を妻と共有することで、すべてが2倍すばらしく、貴重なものに思える。そういう想いとともに新しい経験を求めて生きていける僕は、とてもラッキーだと思います。
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─ステージで演奏する時と、ひとりで演奏する時ではどのような感覚の違いがありますか?
 僕の音楽に最もインスピレーションを与えるのは、聴衆とのつながりです。人間は個々に異なるものですが、深いところでは何かが共通していることを実感するような、同じ感覚を共有し、ひとつになる感覚です。
 一人でピアノを弾くときは、作品の真髄に近づくため自分の音に集中します。これはつまり、すばらしいニュースを自分ひとりで噛みしめている状態。でも、その幸福をたくさんの人と分かち合うことができたら、喜びは何倍にもなりますね。音楽も同じだと思います。ですから、僕はもし無人島に自分しか存在しなければ、ピアノは弾かないと思います。誰かと分かち合うことができないならば、ピアノは弾きません。

─子供のころ音楽学校に入るとき、お母様が「練習が続かないだろうから合唱を」と勧めたけれど、ピアノを選んだそうですね。
 その話、実は合唱のクラスから追い出されたというのが正しいんですよ。僕が大きな声で歌いすぎるし、何かっていうとすぐにソリストになろうとするから、ピアノにしておきなさいと先生に言われてしまったんですって(笑)。
 その頃に比べると僕にとってピアノの存在は大きく変わりましたね。ずっと自然の流れでピアノを弾いてきましたが、18、19歳ごろになってようやく、音楽とは何かを改めて考え、かけがえのないものと感じるようになりました。僕のピアノへの想いは、本当に美しい形に成長したと思います。

─美しい音を出すために必要なことはなんでしょうか?
 長い練習を要することですが、体がひとつの流れとなるような、正しい形を保つことです。体の動きは、言ってみれば、聴衆へのエナジーの流れにまでつながるわけです。鍵盤にどう触れるかは考えません。音の質は、伝えようとする感情を想っていれば、自然にそれにふさわしいタッチとなり、適した音質を創り出すことができるのですから。……希望ですけどね(笑)。

─東日本大震災の後という時期に日本で演奏することを、どのように感じていますか?
 多くの方が一瞬にして、命、愛するものを失い、すべてが変容してしまいました。とても心が痛みます。しかし同時に、その後の皆さんが助けあう姿に、日本の社会のすばらしさを見ました。きっとすぐに混乱から抜け出されることと思います。こうした時期の日本で演奏するということは、僕にとっても特別な経験になるはずです。
 音楽家としては被災地の惨状を前に涙を流すことしかできませんが、そんな時でも音楽は人の心に愛をもたらすと思います。辛い局面で、感情面での助け、「日常」に戻ることの助けとなるのではないでしょうか。
 みなさんにお会いできるのを、楽しみにしています。

インタビュー:高坂はる香(音楽ライター)



posted by Japan Arts at 14:50| お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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