2010年10月19日

リフシッツ、インタビュー(2010年12月公演へ向けて)

コンスタンチン・リフシッツが12月に来日する。今回は樫本大進とのデュオ、チェロの趙静(ちょう・ちん)を加えたトリオ公演、そして12月24日のクリスマス・イブにソロ・リサイタルを行い、バッハのゴルトベルク変奏曲を取り上げる。今回演奏するゴルトベルク変奏曲は、かのグレン・グールドの初録音よりも早くリフシッツが18歳の時に録音され、そのCDはアメリカでグラミー賞にノミネートされた。ニューヨーク・タイムズ紙は「グールド以来、最もパワフルな演奏」と評した記念すべき作品。日本では1999年以来11年ぶりに披露される。

DSC_3944.jpgあなたはデビュー以来バッハを継続的に取り上げていらっしゃいますが、あなたのレパートリーにおいて、バッハはどのような位置を占めますか?
― 私の過去のプログラムを見ていただければ、バッハが占める割合が多いというのは、一目瞭然です。それは、何よりもまず、演奏会の主催者に頼まれるから、という理由が大ですが、同時に私が一番演奏したい作曲家でもあります。『バッハが私に“好意的”に接してくれる』ので、私にとって、バッハは、伝えたいことを、最も率直に聞き手に伝えやすい作曲家なのです。
はい、バッハは日本だけでなく、世界のいろんな場所で演奏を依頼されますね。いつも喜んで取り組んでいます。

あなたは「バッハを正統に扱うには、派生的な芸術も考えなければならない。建築、修辞学、詩、絵画など。そしてその統合で、鍵盤も弾かねばならない」と語られていますが…
― そんなこと言いましたか? 自分でも怖いですね!(笑)

さて、ゴルトベルグ変奏曲を演奏する時には、どんな要素を重視されていますか?
― それはコンサートで演奏する時ですか? それとも自分のために弾く時ですか? それによって、答えが違います。

ではまず、演奏会で、聴衆を前に弾く時の場合は?
― まず生き延びて、終いまで弾ききること!(笑)
…いや、半分冗談ですが、なにしろご存知のように80分は超える大曲ですからね。私はまず、この音楽が有する美しさを表現しようと心がけています。それが叶って聴衆の皆さんにこの作品の美しさが伝わったら、それが何よりの喜びです。
練習で弾く場合、あるいは自分のために弾く場合は、いつも新しい発見を模索しながら弾いています。音符が鍵盤に“乗って”くると、きのうは感じなかったことが、ふと浮かんできたりするのです。人間の状態は、毎日毎分違います。気分が良かったり、そうでなかったり、体調によっても音は変わってきます。その中で、その時々に応じた発見が、私をいつも驚かせます。そしてそれを今度は、聴衆の皆さんに表現しようとする…
その繰り返しですね。

日本でゴルトベルクを演奏されるのは1999年以来11年ぶりですが、この作品を演奏される上でご自身の変化、また作品の捉え方に何か変化はありましたか?
― これはとても主観的なことで、私自身、この11年いろいろな面で変化はありましたし、音楽との相関関係も変わりました。人間は、常に足踏みしているわけではないですからね。日々刻々と考え方やとらえ方は変わって当然です。ただ、それが音楽を通して、聴衆の皆さんが「変化」としてどのように受け止めるか、それは私が測れることではありません。11年前にゴルトベルクを聞いてくださった方が、今回の演奏を聞いて、「変化」を感じてくださるかどうか、チャンスがあったら、是非意見を伺ってみたいものです。
ゴルトベルクは、先ほども言いましたが、長い作品です。大変な集中力を要します。弾き始めた時、それから5分弾いた時、さらに10分、30分と弾いていくうちに、たとえ最初うまく“乗れなくても”どんどん音楽に入っていける。それは長い作品の長所かもしれません。確かに、マラソンや車長距離運転のように、長い集中力を要しますが、逆に自分を表現したり、感じ方の微調整をしたりするだけの時間の余裕があるわけです。オペラ歌手もそうでしょう。小さなアリアをたくさん歌う役柄もあれば、どん、と特大のアリアが聞かせどころの役もありますよね。

現代のコンサートグランドピアノでバッハを演奏する際に気をつけていることはありますか?
― バッハの時代にも、今に似た楽器はそろそろ登場し始めていました。それでも、現代の楽器との違いはあります。私は、バッハが頭の中に描いていた音のパレットを表現したいと考えます。ピアノと言うのは、きわめて“中立的”な楽器。ヴァイオリンやオーボエなどと違って、奏者が音色を変える、ということは出来ません。頭の中で最初に浮かぶ音色を、いかに実際の音に表現するか、それが常日頃の練習で自分に課していることです。

バッハ作品を演奏する際に多くの古楽奏者が行っているように作曲当時の楽器や演奏様式など「当時の響き」を追及することをどのように思われますか?
またあなたがバッハを演奏する際に最も大事だと思うことを教えて下さい。
― 『当時の音』を再現しようと言うことに対して、私は反論はしません。でも、どんなに当時の音を追及しても、それは録音で残っているわけではありませんし、正確にはわかりません。どうしても、そこには現代人のファンタジーや詩情が足されてしまいます。いずれにしても、「当時」と「現代」をほどほどに混ぜ合わせることが最良かと思います。

あなたは日本の伝統的な文化や風習を好まれていますが、何が心をとらえるのでしょう?
― まずは、日本文化の独自性です。どこにもない、日本固有の稀有な文化や風習。歴史を紐解くと、日本は長い間外国との関係を絶って、独自の営みを続けていました。その良い意味での賜物が、このすばらしい文化だと思います。他の、どの国でも、これほどオリジナリティーのある文化や風習は、お目にかかれません。
歌舞伎や能にしてもそうです。言葉が重要な意味を持っているにもかかわらず、言葉を解さない私でも、非常に惹かれます。言葉の意味がわからなくても、観ているだけで、多くのものが伝わってくるのです。
食べ物ですか? もちろん大好きです! 日本食は、何よりも美しい!(盛り付けのこと) 何が一番好きか…
難しいですね。何でも好きです。刺身も、寿司も。生の魚は、日本でしか食べませんよ。
私が今滞在しているデュッセルドルフ(注:デュッセルドルフ滞在中に電話インタビュー)には、日本街、なるものがあり、日本のレストランが数多くあります。おにぎり専門の店、関西料理、お好み焼き…(これを全て日本語で言う)。
きのうもここでうどんを食べましたよ!

聴衆の皆さんへのメッセージをお願いします。
― いつもそうですが、日本に行くのを心待ちにしています!皆さんに、またお目にかかれるのがとても楽しみです。私は今シーズン、バッハの「フーガの技法」(BWV1080)に集中的に取り組んでおり、CDも出しました。今回皆さんの前で演奏する機会が無いのは残念ですが、CDを是非聞いてみてください。演奏会でゴルトベルクを聞き、さらに「フーガの技法」を聞いてくだされば、バッハの音楽のさらなる魅力を感じていただけるでしょう。
日本の聴衆の皆さんは、大変に洗練されています。知識があり、理解力に富み、そして開放的です。これだけ数多くのアーティストが日本に訪れているわけですから、聴衆の耳も、とても肥えていますよね。
日本の聴衆とは、いつもとてもコンタクトしやすい。壁を感じない、と言うか、もちろんホールや町によっても違いますが、一概に言って、聞き手と一体感を感じながら演奏することが出来ます。これは演奏家にとって、大変重要なことです。私たちが発するものを、客席で受け止め、さらに向こうからも帰ってくるのです。フィードバック、ですね。ですから、日本での演奏は、いつも、どこでも、大変楽しみにしています。
今回も皆さんと共に、すばらしい音楽の空間を創造できると思います!

インタビュー・文=小賀明子



樫本大進&趙静&コンスタンチン・リフシッツ トリオ公演
2010年12月16日(木) 19時開演 紀尾井ホール
詳細はこちら

樫本大進&コンスタンチン・リフシッツ デュオ公演
2010年12月18日(土) 14時開演 紀尾井ホール
2010年12月19日(日) 14時開演 紀尾井ホール
詳細はこちら


コンスタンチン・リフシッツ ピアノ・リサイタル
2010年12月24日(金) 19時開演 東京文化会館 小ホール
詳細はこちら



posted by Japan Arts at 16:05| コンスタンチン・リフシッツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。