2010年05月20日

≪究極のショパン≫クリスチャン・ツィメルマン

1回1回のステージに命を賭けて臨みます。
死ぬ気で演奏する作品でなければ、弾くことはありません。

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 クリスチャン・ツィメルマンはヨーロッパの伝統を受け継ぐ正統派のピアニストとして知られている。レパートリーをじっくりと選び、長年かけて作品を完璧なる状態に仕上げ、さらにホールの音響、楽器の調整まで気を配り、最大限すばらしい演奏を生み出そうと努力する。音響や調律を学び、10年ほど前から自分の楽器を演奏会に持ち込むようになった。
 「私がさまざまなこだわりを持つのは完全に納得いく演奏をしたいから。自分の理想とする演奏を聴衆に聴いてほしいからです。そのためにはあらゆることをする覚悟があります。これは音楽に対する私の尊敬と愛情の表れ。自分が納得いく演奏をしなければ作品に近づくことはできない。すべては音楽のためです」
 ツィメルマンのこだわりは楽器に対してだけではない。彼は祖国の偉大なショパンが編み出した2曲のピアノ協奏曲を、なんとしてでも理想の形で表現したかった。そのためにはこの作品が内包するオーケストラのすばらしさをより強く打ち出し、ピアノ・ソロとの密度濃い音の対話を実践することが必要となる。ツィメルマンは90年代の終わりに自らオーディションを行い、ポーランド祝祭管弦楽団を設立。このオーケストラと世界ツアーを行い、コンチェルト2曲の録音も完成させた。
 「ショパンのピアノ協奏曲は若い時代の作品で、オーケストレーションが完璧ではないといわれることが多いのですが、決してそんなことはありません。ピアノとオーケストラの呼吸が合い、密接なコミュニケーションが可能になれば、それこそすばらしい音楽が生まれます。みずみずしく情感豊かなこれらの作品は、聴いてくださるかたの心を幸せで満たし、ショパンの世界へといざなう力を有している。それを表現したかったのです」
 ツィメルマンの音楽への深い愛情は、子ども時代の家庭環境から生まれたもの。彼はポーランドのシュレジア地方に生まれたが、当時この土地は環境汚染がひどく、窓も開けられない状態だった。両親は工場で働き、音楽好きの父親は仲間たちと一緒にいつも家でさまざまな楽器を演奏して楽しんでいた。彼らにとって、音楽は過酷な仕事、生活環境から逃れる唯一の手段であり、楽しみだった。そのアンサンブルにツィメルマンは幼いころから加わり、やがてピアノを習うことになる。7歳からは名ピアニスト、教師として知られるアンジェイ・ヤシンスキに師事し、音楽の基本を学び、10代から次々にコンクールに参加するようになった。
 「でも、いつもいい成績を残していたわけではありません。私は当時トリルの演奏が苦手で、あるコンクールに参加したとき、このトリルでことごとく失敗、ビリになってしまったんですよ。そのときにヤシンスキ先生が審査員席にいらして、まわりの審査員たちから、この子はこれ以上ピアノを続けていてもねえ…といわれ、困惑していたのを覚えています。ものすごく悔しかったですよ。私が直接いわれるのならともかく、先生が周囲の人たちから弟子の欠点を指摘されているのですから」
 ツィメルマンはその悔しさを払拭するため猛練習をし、次のコンクールでは見事第1位を勝ち取った。まだ、ショパン国際ピアノ・コンクールに出る前のことである。だが、この国内のコンクールで優勝を果たしたことにより、ツィメルマンのもとにはショパン・コンクールへの要請が入ることになる。このときはポーランドから参加した唯一の男性ピアニストとして、また18歳という若さで優勝の栄冠に輝いたわけだが、その後の人生は決して平坦ではなかった。世界各地から演奏の申し込みが殺到、録音も行われたが、常に彼はこれでいいのかと自問自答していた。
 「自分の本当に目指したい道は何なのか、音楽への強い愛情をいかにしたら聴衆に伝えられるのか、完璧なる演奏をするためには何が必要か、ずっと悩んでいました。もちろんこの答えはいまだ出ていません。だからこそ私は自分を律し、練習へと駆り立てるのです」
 真摯で前向きで果敢に人生を切り開く姿勢を崩さないツィメルマン。その演奏は世界各地で絶賛され、最近では「真の巨匠」とまで称されているが、本人はこうした賞賛の言葉には興味を示さない。ただひたすら自分が納得のいく理想の美しい音楽を求め続けている。それが証拠に、ショパンのピアノ・ソナタ第2番、第3番はこれまで何度となく録音を行ってきた。数カ月前にも収録を終えた。しかし、いまだその結果に満足できず、世には送り出せない。レコーディング・スタッフには申し訳ないと思いながらも、妥協はしない。
「このソナタは私にとって非常に大切な作品。長年弾き続けてきた愛奏曲です。でも、まだショパンの意図したところには近づけず、作曲家の魂を表現することができないのです。リサイタルで演奏するのは録音を残すこととはまったく異なる意味合いを持っているため積極的に舞台にかけますが、録音はまだリリースできないのです。今年のショパン・イヤーにはショパンを演奏する機会が以前にも増して多いですから、ソナタの演奏もより成熟度が増していくと思います。私はいつもこれらを1回1回死ぬつもりで演奏します。命を賭けて演奏する作品でなければ、私は弾くことはありません。だからこそ、すべてを完璧な状態に整えなければならないのです」
 こうした言葉だけを聞くと完璧主義者ゆえの近寄りがたい性格だと思われがちだが、素顔はとてもおだやかでジョーク好き。ファンを大切にし、信頼し合う音楽仲間も多い。カラヤンとバーンスタインの両巨匠に愛され、クレーメルとは親友、後輩のブレハッチの面倒をことこまかに見る。現存する作曲家からも作品を献呈され、彼らとの交流も深い。そんなすべてがツィメルマンの音楽を形成し、完璧な美に貫かれながらも、作品の奥深く潜む喜怒哀楽の感情が豊かに表現される。その味わい深い表現を演奏から受け取りたい。

伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)



≪クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル≫

2010年6月3日(木) 19時開演 サントリーホール
2010年6月5日(土) 18時開演 サントリーホール
2010年6月10日(木) 19時開演 サントリーホール

曲目は下記URLからご確認ください。

<チケットの購入>
WEB:こちらから
TEL:ジャパン・アーツぴあコールセンター (03)5237-7711
詳しい公演情報はこちらから

posted by Japan Arts at 16:02| クリスチャン・ツィメルマン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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