2010年04月21日

ショパンの音楽を生きること

前編はこちら

 「ショパンの音楽は、彼という人物と切り離して語れるものではありません。最初に理解しなくてはならないのは、19世紀の頃、ある国には領土というものがなく、存在する権利すら奪われていた。そのような時代に、ショパンがポーランド舞曲のリズムにもとづいてマズルカを書くことはなにを意味していたのか。つまりそれは、ひとつの国が存続する権利をもち得るようなアイデンティにほかならなかったのです。そして、私にとってのショパンは、自分の人生をずっと伴走して、ともに歩んできてくれた音楽でもあります」。
 クリスチャン・ツィメルマンが、いま敢えてショパンの作品に集中して取り組んでいるのは、たんに生誕200周年だから、といった間に合わせの理由によるのであるはずがない。「生まれた瞬間からショパンの音楽とともに歩んできた」と語る彼だからこそ、内に秘めた覚悟は深く強いものに違いない。現在のツィメルマンならでは視点で、作品を細部まで見つめ直し、意を決して臨んでいるはずだ。
 さて、ツィメルマンの本格的なショパン・プロジェクトとしてすぐに思い浮かぶのは、このために自ら組織したポーランド祝祭管弦楽団を指揮したピアノ協奏曲である。今年2010年が生誕200周年のお祝いなら、このプロジェクトでレコーディングも行った1999年はショパンの没後150周年にあたっていた。オーケストレーションを見直して独自の解釈を聴かせたツィメルマンは、「ピアノとオーケストラが一体化するものを創造したかった」とその思いをふり返る。「もうひとつ、ショパンのオペラに対する愛情を表現することを試みました。ショパンがワルシャワにいた当時は、ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニといったオペラの大作曲家が初演の後すぐにこの街で上演したのです。また、ショパンが歌劇場にいた歌手に恋をしていたということも、オペラのもつ意味を非常に大きなものにしていた。ヘ短調コンチェルトのリハーサルのとき、私はオーケストラに何度も止めましたよ。ここに19歳の人が座っているのだということを決して忘れないように、と言って」。
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 そして2010年、ツィメルマンはオール・ショパンでのリサイタル・ツアーを、年明けからヨーロッパ中で展開してきた。ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調と第3番ロ短調を中心としたプログラムで、この5月には日本各地を訪れる。作品を演奏することを通じて、ショパンの激しい人生や感情を生き続けていくのには、どのような秘訣があるのだろうか。
 「私にとっては毎回がリスクでもあり、謎でもあるのですね。ショパンの激動の時代に生きることは、その度ごとの挑戦でもある。だからこそ、最良の緊張感を生み出すのではないかと思います。どれだけ練習をしても、コンサートではなにかが起きます。あるいは、なにも起こらない、ということが起きる(笑い)。それこそが、芸術であるか、そうでないものであるかの違いを生み出すのだと思います。これに対しては、私自身が影響を与えられるものでもないのです。すべてを準備することはできます。そのうえで、それをどうしても体験したいという聴く方の意思、そしてなにか体験したいと思われているものを与えたいという私の思いが一致しないとだめなので、それを先ほどリスクと呼んだわけです」
 音楽は私たちがともに生きる時間のなかにしかない、とツィメルマンは考える。そして、それは一期一会のコミュニケーションを通じて、毎回異なるかたちで立ち顕れてくる。ツィメルマンが格別の敬愛を抱いて臨むショパンとの対話は、そうしてコンサートのさなかにこそ、かけがえのない生命を育んでいく。
 「今回はオール・ショパン・プログラムを組みますが、この後、私はしばらくショパンをお休みしようと思っているのです。日本の聴衆の方々に、私の弾く2つのソナタをお聴きいただけるのは、数ある機会の最後のひとつになるかも知れない。もう一度、日本でこれを演奏することになるかどうかはまだわかりません・・・・」。

取材・文 青澤隆明


 

zimerman_flyer.jpg≪クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル≫
2010年6月3日(木) 19時開演 サントリーホール
2010年6月5日(土) 18時開演 サントリーホール
2010年6月10日(木) 19時開演 サントリーホール
曲目:
【オール・ショパン・プログラム】
ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 作品35
ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58
●全曲目は追って発表致します。
※この他の曲目につきましては、東京3公演は異なるプログラムになる予定です。

<チケットの購入>
WEB:こちらから
TEL:ジャパン・アーツぴあコールセンター (03)5237-7711
詳しい公演情報はこちらから

posted by Japan Arts at 12:29| クリスチャン・ツィメルマン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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