2010年03月10日

“ハンマークラヴィーア”への期待!

 世界的寒波でウィーンも数年ぶりの大雪のなか、森の奥深いルドルフ・ブッフビンダー邸を訪ねる。ベルリンから帰ったばかりで、これからオスローに向けて出発するという、相変わらずの慌ただしさ。コンサートの回数は、それでも年に100回を越えないようにしていて、協奏曲とリサイタルは、ほぼ半々と語る。グルダが亡くなりブレンデルが引退した現在、“ウィーン・ピアノ流派”の後継者としてはブッフビンダーがその頂点にいるわけで、世界各都市におけるコンサートホールやフェスティヴァルでの彼の重要度は、およそ日本では想像がつかないだろう。さらに3年前からウィーン近郊のメッテルニッヒ侯爵城で開催されるサマー・フェスティヴァル、“グラーフネック音楽祭”の芸術監督として彼の社会的存在感は増大するばかりだ。
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目下ベートーヴェンの「ソナタ全曲演奏シリーズ」がミュンヘンとワルシャワでランニング中であり、これまで全曲シリーズは40回以上と、ギネスブックものの記録保持者だ。

Q:膨大なレパートリーで知られるブッフビンダーさんですが、やはり中心となるのはベートーヴェンですよね。そこで神童時代から50年以上ベートーヴェンを弾いてこられて、ソナタの全曲演奏もたいへんな回数になりますが、それでも何か新しいものが見えてくるものですか?
ブッフビンダー(以下B):
つねに、弾くたびに毎回が新鮮です。ことにベートーヴェンだからこそ、と言うべきか。私は誰の作品でも二度と同じように弾くことはしないのですが、いつもコンサートを聞いている家内が、『今日、また違う弾き方をしたわね!』と驚くくらい新しいアイディアが沸いてきます。ベートーヴェンのソナタに関しては18種類ほどの異なった楽譜がいま手元にありますが、それらの比較がたいへん興味深いのです。もちろん旅行先では図書館や研究所でベートーヴェンの自筆譜を研究して、それが私の演奏解釈のバックグラウンドになっています。

Q:今回の来日プログラム、「第10番」、「第23番“熱情”」、「第29番“ハンマークラヴィーア”」のうち、「ハンマークラヴィーア」は日本ではじめてになります。体力的にもたいへんな作品だから、いま年齢的にもちょうど良い時期かもしれませんね。
B:
「ハンマークラヴィーア」は「ディアベッリ変奏曲」と並んでベートーヴェンがピアノを通して自分の世界観を語った巨大な記念碑というだけではなく、ピアニストに対して途方もない精神力と体力を要求する特別なモンスター作品です。「ディアベッリ」はすでに日本で弾いているので、今回「ハンマークラヴィーア」が実現できてうれしいです。この曲をちょうどワルシャワやミュンヘンで弾いている時期でもあるので、タイミング的にも良いですね。年齢と体力に関しては、私はこの先もずっと「ハマークラヴィーア」を弾き続ける自信があります。独自の練習メトードを練り上げたんですよ。

Q:学生時代にサイドルホーファー先生から習ったのとは違うメトードですか?
B:違います。私が自分で考案したのです。いま1日の練習時間は2時間程度で、他の時間は読書とか、趣味に当てるようにすることで肉体的にも精神的にも余裕が出てきます。

Q:6時間とか8時間とかいうピアニストが多いですよね
B:それはナンセンス。そんなに長時間、頭が付いて行きませんよ。指だって腱鞘炎とか、背中が曲がるとか、ロクなことはありません。頭がカラッポで指だけ動かしているのは、まったくナンセンス。だから私は2時間集中して十分必要な練習は済ませます。そのかわり本番に匹敵するぐらいの集中力でやりますから、30分ほどでヘトヘトになりますが、小休止を途中に取りながら先を続けます。

Q:非常に合理的なメトードだから、いまのような多面的な活動が可能なのですね。日本での素晴らしい演奏を期待しています。
B:
これまでのキャリアの集大成としての「ハンマークラヴィーア」になるはずですから、期待していてください。

山崎 睦(音楽ジャーナリスト、ウィーン在住)


2010年4月18日(日) 14時開演 東京オペラシティコンサートホール
曲目:
≪オール・ベートーヴェン・プログラム≫
ピアノ・ソナタ 第10番 ト長調 Op.14-2

ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」

ピアノ・ソナタ 第29番 変ロ長調 Op.106 「ハンマークラヴィーア」
詳しい公演情報はこちらから



posted by Japan Arts at 10:34| ルドルフ・ブッフビンダー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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