印象派、パステルカラー、曖昧模糊とした響き……。
ドビュッシーの音楽に塗り重ねられてきた偏見をレイフ・オヴェ・アンスネスは鮮やかな匠の技で取り払った。最高の職人の口数は少なく、技で全てを語る。
「あなたが弾くドビュッシーのプレリュードは明晰で直截、人間性にあふれ、作曲家の肉声を聴く思いが した」と感想を伝えたら、
「ルービンシュタインがギーゼキングの演奏を聴いて漏らした《デコ(装飾)の音楽》の一言、間違いだよね」と、ノルウェーが生んだ 寡黙で大胆なピアノ職人は答えた。
アンスネスは一歩ずつ、巨匠への階段を上っている。
音楽ジャーナリスト 池田卓夫