2008年09月26日

アンスネス:公演間近インタビュー

ノルウェーが生んだ21世紀を代表する若き巨匠、レイフ・オヴェ・アンスネス。
インタビューを2回にわけてお届けします。

<第1回>
1970年生まれというから、今年で38歳になるはず。それだけ若いというのに、すでに大成した芸術家の風格を漂わせるレイフ・オヴェ・アンスネス。右から左へ、音楽が洪水のように消費される現代社会にあって、自分の血肉と化したレパートリーしか取り上げない、というのは、よほどの意志の力がなければできないことに違いない。急峻な岩山を、一歩一歩足場を確保しながら登っていくような演奏。その演奏が登り詰めた山の頂からは、きっと誰も見たことのないような絶景が広がっていることだろう。

andsnes_photo.jpgQ:古典派のレパートリー(ベートーヴェン、シューベルトなど)を近年積極的に手がけられています。いま演奏することに理由はおありですか?
A:ピアニストとして本格的に練習を始めた頃は、主にロマン派のレパートリーを弾いていました。年齢を重ねるにつれ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトを弾くのがよりしっくりくるようになりました。あの時代のウィーンの音楽は、独特の軽さと魅力がありますよね。それは20歳の僕にはわからなかったんです。

Q:シューベルト作品を、イアン・ボストリッジ、マティアス・ゲルネ、室内楽奏者と共演なさっていますね。
A:昔から彼の歌曲は大好きですが、ボストリッジやゲルネなど素晴らしい音楽家との共演はこの上ない喜びでした。ピアニストにとって技術的にはさほど難しくないのですが、和声の動きや、その個性は本当に美しく、弾いているときは天国にいるような気分です。昨年はピアノ・ソナタも多く演奏しましたが、歌曲とは全く違う性質のものです。ソナタの多くは曲が長いので、長い旅をしているようですし、時間の感覚がなくなるような感じです。ブレンデルがかつて言ったように、まさに夢遊病のような状態になります。

Q:これまであまりラヴェルやドビュッシーなどのフランスものは、取り上げられてなかったのでは?
A:フランスものは昔少し弾いて、その後しばらく遠ざかっていましたが、最近また弾き始めました。特にドビュッシーは20世紀の作曲家のなかで一番好きな作曲家でもあります。その音楽は、この世のものではないような、どこから来たのかわからないものですね。その和声は彼以前にはなかったものですし、とても新しく、想像力をかき立てます。彼の作品はいつ弾いても、その時そこで生まれた、新鮮な音楽のように感じるのです。それに、作曲家がピアノという楽器を完璧に理解していたというのがわかる、ピアノ曲として非常によくできた作品ばかりですから。

Q:お話を伺っていると、ある時期からは古典派、ここ数年はフランスもの、とレパートリーを意識的に区切りながら拡げているように見受けられます。どのようにレパートリーを増やしていらっしゃるのでしょう?
A:今ならこれを弾いてもいい、と自分で思った段階で、新しい曲を取り上げるようにしています。例えばブラームスの《ピアノ協奏曲第1番》は24歳のときに弾きましたが、第2番を弾くにはまだ早い、とずっと思っていました。尊敬に値するこの作品を「そろそろ弾いてもいいのではないか」と思ったのは、2年前のことです。
この根拠は直感的なものですが、技術的・音楽的な知識、他の人のアドバイスも参考にしています。ピアニストには、一生かかっても弾ききれないほどの作品があることは、贅沢でもあり、難問でもあるのです。弾きたい曲はたくさんありますが、自分に合うか合わないかも考慮します。例えばフランスものでもラヴェルはまだあまり演奏していませんし、スクリャービンは一度も弾いていません。本能的に、これは違うかな、と思っているんです。

Q:「今は違う」ですよね? いずれ変わることも?
A:あるかもしれないですね(笑)。


2008年8月22日
聞き手・翻訳:高島まき
構成:広瀬大介

posted by Japan Arts at 14:51| レイフ・オヴェ・アンスネス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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